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ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜

考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』 第3話

・第3話はマーシャルが担当させて頂きます。テーマを聞いた時、「幕末、SF『銀魂』かな?」が最初の感想でした。

隆晴と小佐吉の前に新選組の脅威が襲い掛かる!

 

 容赦することはできない……」

 山南は所謂、“優男”ではあるが己の立場をわきまえず自身の些細な偽善を満たさんがために全てを台無しにする男では無い。組織を改め、新しく新撰組の特別な部隊の長となった彼の一挙一動がこの場にいる隊士、ひいては今後のこの「作戦」に影響が及ぶことも十分に理解していた。

 此度の作戦においては、事前に土方や永倉らと新たに「屍浚法度(しざらいはっと)」なる隊規を策定し、この任務にあたる隊士達に徹底させている。今まさにこの商家の子ら二人を斬らねばならないのもこの法度に定めたことに従って行わねばならぬ事だ。「隠密ナレ。見付レバ即チ討捨ルベシ」。隊規は絶対であり、そこに私情が介入することは一切許されない。

 しかし、絶対の規則と揺れ動く私情の間にやはり疑問を拭い切れずにいられなかった。芹沢ら水戸派の粛正後、局長となった近藤とは江戸にいた頃からの付き合いであり尊敬に値する人格者だ。しかし彼やその他の試衛館組と隊の再編成後、距離を取っていた。組織の拡大について異論は無い。しかし今まさに私が、新撰組が行っていることは果たして本当に勤王と言えるのだろうか、士道たり得るのだろうか、それとも近藤はそれ以上の……、

「どうしたんですか、やっぱり山南サンさんには酷なコトですかね?」

突如、思考に軽口が割って入ってきた。気づくと、この隊でも若手で壬生浪士隊の頃からの隊士であったノグチが顔を覗き込ませていた。その瞳は開き、自身の像を映している。

「いえ、なんでもありませんよ。」

思考が表情に浮かんでいなかったかと一瞬、気取ったが相手がノグチで良かった。相手が斉藤であれば少なからず読み取られていたかもしれない。

「しかし隊規とはいえ、相手が無抵抗な子どもでは気が引けますね」

 相変わらずノグチは軽口を続ける、この言葉にも深い意味はない筈だ。彼は純真で率直な性格であった。しかし、例えノグチが生来は察言観色な人物であったとしても関係はない。なぜならば彼はすでにこの世の者ではないからだ。

 そもそもこの隊に生者は半数しかいない。残りは「屍番」と呼ばれる動く屍である。「死人に口無し」とは今となってはそうは言えないが、思考はない。彼らに残されたのは生者との意志疎通能力と生前に体得した剣技のみである。目は開きながらも、その瞳孔は常に開きそこがより、生者との境界を明確にしていた。

 死の恐怖や倫理観に揺れ動かされない彼らを見ていると、自身の考えなどどうでもよくなった。今私に必要なのは、目の前の問題に総長としてどう対処するかである。そもそもこの場に長居することも更なる障害を招く恐れがあることだ。

「斬り捨てなさい。」

出来るだけ冷淡に、用件だけを山南は告げた。

 斉藤は抱えていた子ども2人を放り投げ、2人は地面にどすっ、と横たわった。すかさず隊士たちはそれに続き均等な距離を保ちながら辺りを囲み、抜刀した。隊士の内2人が隆晴と小佐吉に斬りかかろうとしたその時、背後の崩れかかった墓石からすさまじい破裂音と共に影が跳んで来た。

 ―――直後、隊士1人が正面から倒れ、同時に対面した隊士の首を影が刎ねた。隊は突然の出来事に対応が遅れ、影はそのままの勢いを緩める事無くこちらを目掛けて突進してきた。

 最初に影の突き立てる刃に対応したのは斉藤であった。彼は向かってくる刃を太刀で撃つと、影は体制を僅かに崩した。しかし、迎え撃つ間もなく影は地面を故意に転がり相対する全ての者と距離をとる。隊は影を囲むものの俊敏な動作とその撃剣に下手に動くことが出来ず、辺りは静寂となった。影が一言も発さない事が一層に人離れした不気味さを強調させる。

 霧が晴れ、月光が幽かに影の正体を捉えた。その時隊士の1人が初めて声を上げた。

「おまえは、人斬り以蔵」

 

(第3話終わり)