ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜

考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』第4話

●こんにちは。第4話はゴクツブシ米太郎が担当します。バトンがようやく一巡しました。楽しく書きました。物語の全体像がふわっと見えてきたような見えないような、まだつかみどころがないなぁと、そんな感想をもちました。

 

 人呼んで人斬り以蔵――ここ数年、攘夷派の土佐勤王党に与して京都に潜入し、あまたの役人を誅殺してきた第一級の危険人物である。幕府お膝元の新撰組にとっては当然、即刻つぶしてしまいたい目のかたきだった。

――この二、三ヶ月は沙汰も起こさず、杳として姿をくらませていたようだが。

 突如、月明かりの下に姿をさらした以蔵を、山南は注意深く観察する。

 ――意味もなく我々の眼前に現れるような男でもあるまい。

「まだ人斬りって呼ぶのかい? 俺のことを?」

 以蔵は女のように細い指で、着流しの大きく開いた胸元を掻きながら、甲高い哄笑を漏らした。

「近頃はさぁ、人でもねぇようなものばかり斬ってる気がするけどねぇ。そっちのほうがおもしれぇから、もう人を斬るんじゃ物足りんかもねぇ」

 総長、下がってください、と若い隊士が一人、山南の前にずいと進み出て刀を構えた。血気盛んなこの若者は、一思いに以蔵を斬り伏せるつもりらしい。山南は反射的に叫んでいた。

「ばか、よせ!」

「さよーなら」

 そうつぶやいた以蔵の抜いた刀が蛇のようにしなって若い隊士の身体を打った、

 打たれた隊士は血しぶきを噴いてくずおれた。

 胸から腸まで届く長い裂傷が刻まれたその身体は、一瞬にして事切れていた。

「山南さんっ」

 ノグチが有無を言わさぬ調子で山南を庇わんと後ろに押しやり、以蔵の前に立ちはだかる。以蔵はノグチを指差してにたりと笑った。

「そう、お前みたいなやつと話がしたかったんだ。京の大人たちの流行り唄で耳にしてねぇ、『生きてもつまらん往(い)んだろか 往んでも逃げれん生き地獄 骸(むくろ)を誰かが掘り出して 虚ろな遊びをしたるんか♪』ってねぇ。見るにつけ、お前が蘇らされた死体ってとこだろう?」

「お前なんぞに教えることなど何も無い。覚悟して散れ!」

 ノグチは風のごとき速さで以蔵との間合いを詰めると、刀を振りかぶった。以蔵はひらりとかわして反撃の一太刀をノグチに浴びせる。しかし、それが見切れぬノグチではない。身体をよじって刀で受け止めた。鍔迫り合い、金属の軋む音が静かな墓地に響き渡る。

 ノグチは怒鳴った。

「岡田、貴様の狙いは何だ!? 京の都に何の用がある?」

「狙い、というかまぁ、そうだねぇ……。お前たちのやってることが生者の再利用だとするならば、俺たちのほうは……死が生の次のステージになるというか……。そういうことかもしれないねぇ」

「何だと?」

 予想外の回答に集中力が途切れたノグチの隙をつき、以蔵がノグチの足を払う。

「しまっ――」

転んだノグチの頭上から、真っ直ぐ刀が振り下ろされた――

 

(第4話おわり)