読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜

考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』第5話

☆いがもっちです。自分の回では時代背景を膨らませる描写が弱くなってしまいがちです。そこが一つ課題ですね。前回、ピンチのノグチ。ノグチの頭に降り掛かるのは刀か? それとも上司たちからのプレッシャーなのか?

 

「しまっーー」

 ノグチはとっさの防御すらとることができない。

「じゃあねぃ♪、お前もばいばい」

 以蔵の刀剣が降り下ろされる。

 「やーーーーーーーーろーーーーーーーー!!」

 墓地に怒声が轟いた。

 その喚声は以蔵の一振りをとどめるには十分、突飛なものだった。

「なんだぁー?」

 以蔵はノグチから離れ声がした方を向いた。

「やめろ! 殺すでない!」

 声の主は小佐吉だった。

 

 ーー小佐吉。小佐吉。てめー寝てんじゃねえいい加減起きろや!
 ーー何するんですか兄上!痛いではありませんか!
 白いぼんやりとした空間の中に小佐吉は兄の姿をしっかりとみた。
 ーーこれは、夢?
 ーー夢でもあるし、そうでないかもしれない。
 にっと笑う兄の顔に懐かしさを覚える。
 ーーまだ、お前は夢を叶えていないんだろ? じゃあ、行かねーとな。こんな場所とっとと出ちまえ。
 冗談を言っているのか本心なのかが分からない。だけど……ーー
 ーーいつか追いつきますぞ。兄上。私も。
 ーーばーか、無理だよ無理。100年はえー。

 

 起きてすぐに聞こえたのは剣と剣がぶつかる音だった。

 さっきまでどんな夢を見ていたのか小佐吉は忘れてしまっていた。

 意識がはっきりしてきてようやくここがまだ墓場だと理解した。

 ーー危ない!

 男がもう一人の男を斬ろうとした時、小佐吉は思わず叫び声をあげていた。

 どっちが敵でどっちが見方かも分からない状況にもかかわらずとっさに止めに入ってしまった。

「やめろ! 殺すでない!」

 言った瞬間、何を言ってるんだ自分は? と小佐吉は思った。

 小佐吉は謎の高揚感に背中を押されているのを感じる。

「ああ〜!? 何言ってんだこの坊主ぅ? おいっ、山南ぃ!! ガキを戦場に連れて

くんじゃねぇよ」

 以蔵の言葉に山南は黙っている。

 斎藤が無言で以蔵に向かって刀を構える。

「っち、とんだ余興だぜぃ? 生と死もそんな関係ない時代だぁ。もうこうなったらど

ちらかが全滅するまでやるかい?」

 以蔵が斉藤に応える形で剣を構え睨みを利かす。

 斎藤を始め新撰組は皆、以蔵と対峙する形で抜刀。

「舐めるな。新撰組を」

 斎藤がふと呟いた言葉を小佐吉は聞き逃さなかった。

 ーー新撰組? 今、この男、新撰組と申したか?

 小佐吉の思考を突然かき乱すように、以蔵は笑い出した。

「人じゃねぇもんを斬るってのは爽快だが、自分が人外になるってのは、ちょっと今はまだ心外だ」

 以蔵は刀で地面を掬うように振り、砂塵を起こす。新撰組の隊員はとっさに身構える

が砂煙が晴れてもそこに以蔵の姿はなかった。

「こっちこっち♪」

 以蔵は森の入間の木の上に立っていた。

「そうそう、山南ぃ。最後にヒントだけあげるぜ。土佐勤王党、長州、薩摩、全てに掛

け合うことができ死生技術を完成させたあの人は偉大だぁ」

 山南は黙って、ただただ以蔵を睨んでいる。

「それまでお互い死なねーように気をつけよーぜぃ。じゃあな」

 そう言って以蔵は山奥へと消えていった。

『生きてもつまらん往(い)んだろか 往んでも逃げれん生き地獄 骸(むくろ)を誰かが掘り出して 虚ろな遊びをしたるんか♪』

 以蔵の鼻歌はだんだん小さくなっていく。

「さて……」

 しばしの沈黙後、山南は小佐吉の方を向く。小佐吉はビクッとして直立不動してしま

う。

「宿舎へ戻りましょうか。この子たちを連れて」

 

(第5話終わり)