歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜』

ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜 考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of blood〜』 第11話

いがもっちです。今回はいきなり本文から入ります。

※元治元年、7月19日。この日、歴史にも残るとなる事件が起きた。

禁門の変、改め蛤御門の戦いである。

池田屋事件の一件以来、悪役として睨まれていた長州藩は罪の回復のために朝廷に許しを請う。

朝廷内部においても長州藩擁護派と長州藩討伐に別れ、最終的に会津藩擁護の孝明天皇の命によって長州討伐という強硬策を取るのであった。

長州藩尊王攘夷派リーダーである久坂玄瑞は朝廷の京からの退去命令に従おうとしたのだが、仲間たちの進発におされ京へ挙兵することとなった。

 

 新撰組は自陣にて待機をしていた。

 白い幕張の内側では近藤、土方、山南、武田などの幹部が戦の作戦会議を開いている。

新撰組彦根藩大垣藩の後方か。功績をあげるのは難しそうだな」

 近藤が腕を組んで思案する。

「ええ、先の池田屋の一件で長州は新撰組(うち)を目の敵にしているでしょうから、会津藩が取り計らってくれたのでしょう」

 武田がことの説明を行う。

「いらんお世話だな。こんな戦、俺たちだけで8割方片付けることができる。戦が始まり次第、前線へ乗り込むまでだ」

 土方はドスの効いた低い声で言い放つ。声からして多少のイラつきを見せていた。

「さらに長州は屍兵を寄せ付けないため京に火を払っていると聞きます」

 山南が情報を付け加える。

「屍人は火が苦手だからな。新撰組(うち)の屍兵も今回の戦に出すのは厳しいやもしれんな」
 近藤は考えあぐねている。

「さて、どうやって俺たちも戦場に赴いたものか……」

 その会議の様子を側から見ていた小佐吉はある考えを思いつき実行に移す。

「三浦殿」

「あーんなんだ?」
 戦が待ちきれないのか佐久間象山の息子、三浦は剣を見入っていた。三浦の付近には切断された蟻や昆虫の死骸が転がっている。

「なんだ小佐吉。おめーか。戦はまだ始まんねーのか?」

「まだでございます。三浦殿、私にいい考えがあるのですが……」

 小佐吉は自分の考えを三浦に伝える。

「それにいったい何の意味があんだよ?」

新撰組が合法的に戦を始めることができまする。さらに三浦殿。あなたが武功を挙げられますぞ」

 小佐吉はニヤッと笑った。

「なんだてめーは。しょーもねーやつと思ってたけど、物分かりがいいじゃねーか。意外と悪ガキだな」
 三浦もハッハと笑う。

「小佐吉でございまする。少々よろしいでしょうか?」

 小佐吉が片膝をつき幹部たちの会議に割り込んだ。

「どうした?」

 顔見知りの山南が尋ねた。

「先ほど三浦殿が先行してへ九条河原へと切り込みに行きました」

「なんだと!? まだ出動の知らせもきていないというのに。あいつは次から次へと」

 近藤は困惑した表情になる。

「はい。しかし、こうなってはやむを得ません。これを機に三浦殿を止めにいくという形で我々も向かうのはいかがでございますか?」

 一同はしばらくの間話し合ったが結局小佐吉のいう通りにすることに決めた。

 出陣すると決まった時に小佐吉がニヤリと笑ったのを山南は見逃さなかった。

 ……やはりこの子はどうやら只者ではありませんね。

 

 九条河原に出陣するとそこには数多くの長州の屍があった。

「おうっ、小佐吉遅かったな」

 長州勢の屍の中で三浦はあぐらをかいて座っていた。新撰組の先頭を走る小佐吉へと手を挙げた。

 三浦の元へ近藤が鬼のような形相でづかづかと歩いていく。

「お前はなぜこうも決まりを守れない! 組織というのは一人で動いているもんじゃないんだ。そして一人一人の行動には連帯責任が伴う!」

 近藤の説教にも三浦は反省の色を見せない。

「へへっ、いいじゃないですか、局長。目的は長州討伐。例え指示を破ってもそれに加担してればそう咎められますまい」

「次からは指示なしで行動するんじゃない。いいな?」

 近藤は経験上これ以上言っても無駄だとわかり説得を諦めた。

「ヘイヘーイ。そういえば、そういえばさっきおもしれぇ情報が手に入りやしたぜ」

「なんだ?」

「久坂や寺島?だっけか。長州の首が揃って鷹司邸へと潜ったらしいでっせ。なんでも鷹司邸ってのは朝廷たちのおわすところと聞きやすじゃないっすか……」