歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜』

ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜 考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of blood〜』 第17話

☆いがもっちです。

お笑いと女の子はその実似ていて、追いかけたら手に入らない。

 

 瞬殺だった。

 改めて言おう。

 瞬殺であったと。

「畜生。なんだってんであんなおチビちゃんみたいな目に合わないといけないんだ」

 瞬殺とは言ったが彼女の息はまだ続いている。

 ただ勝負はついていた。

 お魁は床にひれ伏しそれを久坂が靴裏で踏んづけているのが今の構図である。

「くくっ、ちょい〜っと本気を出しすぎたかねぇ。女風情に。もしかして軍師的なポジションで戦闘はからっきしだと思っちゃった? 残念だねぇ、それは残念。」

 久坂は拳銃を彼女の頭に構え直す。

「参勤交代は帰るまでが参勤交代つってね。無事に帰らないと想定していた物語(けいかく)通り進まないんでね。それにあんたは生かしちゃおけないからね。悪いけどちと力を出させてもらったよ。それじゃあ、後が押してるんでアディオ……」

「うおーーーーー」

 突然、不意に、二人の間にそれは回転しながら蹴鞠のように突っ込んでいきました。

 得体も知れぬ物体にさすがの久坂も飛び退いた。

「無事でござるか!? お魁どの!」

 それは紛れもなく小佐吉だった。片膝立ちでキメたように登場するも全身傷だらけであった。

「どんな登場の仕方!? 山車の車輪でもあるまいし。しかし助かったわ。恩に着る」

「あいもかわらず邪魔をしてくれるねぃ。山を走っていたらことごとく関所に阻まれてしまう間者のような気分だぁ。めんど臭いしもうここまできたらいっそのことみんなで自爆でもしちゃう?」

 だるそうに久坂はため息をついた。

「拙者は嫌でござるよ。死に際が薬品の化学反応など。寺子屋で学んだことが死に際になってようやくわかるなんて真っ平御免でござる。もっとも原理などは結局さっぱりでござったが。それに……」

 久坂の目が大きく開かれる。彼の腹に白銀の刃が生えていた。

「ガフッ……ねぇ、背後からは卑怯なんじゃないの?」

「斉藤殿がおわします。天に召されるのはそなただけで十分でござるよ」

 斉藤が剣を久坂から抜くと久坂は膝から崩れ落ちた。

「これにて一件落着!」

 腰に手を当てて小佐吉が威張った。

「まだだ!」

 遺体と化したはずの久坂の背中から黒い針金のようなものが貫いて出てくる。斎藤はさすがの反射神経で避けるもかすり傷を負った。

「おいちちちち、あー、痛かったよ。背後から急に刺すとは武士道のかけらもないね。そんなの無視だどうって、痛すぎて面白くないこと言っちゃったよ」

「ヒィー、ゾンビだぁい」

 小佐吉がいつになく取り乱した言葉(セリフ)を吐いた。久坂の背から生えた黒い禍々しき棘は羽のように彼の背に収まると同時に傷口が修復し、彼のその眼は真っ赤に充血していた。

「それが噂に聞く“半屍人”ってやつかい?」

 お魁がいち早く状況を察知した。

「さすがは幕府お抱えの諜報機関。いや、ニンニンニンジャ様というべきかな」

 久坂の言葉を聞いて斎藤はお魁の方を向き、

「お前は……」

「御庭番でござったか」

「……将軍直属の情報収集のスペシャリスト」

「って、山南さま方いつのまに!?」

 山南と藤堂が駆けつけていた。ノグチの姿は見えない。

「あー、『申どきくらいだよ全員集合』ってなわけね。どうするもう本当にお茶でもする? それか君たちももういっそのこと会議についてきちゃおうか?」

 久坂は天を仰ぎ「あーー」と言って、

「でも俺ってこう見えて遊びとか企画する側じゃなくて誘われたらついていく側なんだよね。だから気が弱い僕ちんは他のみんなの顔色を伺わないと君たちを連れていけないや」

 そうして久坂の足元からすごい勢いで煙が渦巻いた。

「煙幕。なんと古典的な手を!」

「今度は本当にアディオス。そうそう。借りた銭とやられた傷は倍にして返せってね。斎藤くん」

 それを最後に声が途切れる。

 煙幕が晴れた時には久坂は消えていたのだった。