歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜』

ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜 考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜 第18話

★マーシャルです。遅筆すまない。『草莽ニ死ス』新章をスタートしたいと思います。お魁をどうも上手く使えないのは仕様では無く、マーシャルの実力がないからです。

「はぁ、すっかり寒ぅなりましたなぁ」

 屯所の中で小佐吉は茶を飲み、そう呟いた。鮮やかだった嵐山の紅葉も見頃を過ぎ、冬が近づき始めていた。禁門の変による動乱から、町もようやく落ち着きを取り戻し日常を取り戻ししつつある。

 あれ以降、お魁どのとは一度も会っていない。勿論久坂の行方についても不明のままである。

 見事活躍を果たした新撰組はその後、小佐吉が知る限り大小様々な変化があった。

 1つは新選組そのもの。見事、天子様の敵を追い払ったと都での庶民からの評判は一層、高くなっている。幕府、会津藩からも相当な額の恩賞を受け賜ったとか。これによって、新撰組の拡張拡充が決定し、隊内では大きな人事編成が行われた。

 2つは自分がこうしてお茶を啜れることであろう。鷹司邸での功績から小佐吉は一端の隊士として認められるようになっていた。そして、

「まったく、隊士になってもキミは呑気なものだ。ねぇ、藤堂くん」

「えっ、ええそうですね山南さん」

 3つ目はこうしてお茶一緒に飲んでいる藤堂どのだ。ノグチどのを失って以来、藤堂どのはどこか無理をしている。聞けばお二人は生前(死後も動いているので何ともヘンであるが)年が近いため仲が良く、沖田どのを交えよく街で遊んでいたとのこと。やはり友を二度も失うというのは応えるモノなのであろう。近藤局長と江戸での隊拡張に関する任務から戻って来られてからも相変わらずのままであった。

 山南どのはと言えば、その表情は落ち着き常に冷静沈着としている。しかし、彼自身に何も変化が無かったわけではない。隊の拡充は幹部組織の再編を含んだ大規模なものであった。再編後の山南どのの地位は以前のまま、むしろ屍生技術の調査に専念せよとの命が出ていた。呑気にしているのはむしろ山南どのの方ではないか。

「自分の性分ですからな、それよりも今回の任とはどのようなものですか」

 小佐吉は思いを飲み込み、話を切り出した。何も山南らと本当に茶を飲み、世間話をするためにここに居るのではない。彼から直々に呼ばれたのだ、それも内密に。招かれたのは小佐吉と任務から戻ったばかりの藤堂、そして斉藤の3名であった。

 

「実は禁門の変以降、分からなかった死生技術の行方についてですが新たな情報を入手しました。今回の任務はそれに関しての事です」

 やはり、三浦を失って以降、新撰組は死生技術について手を拱いていた。山南どのの部屋には間諜を務める隊士が最近多く出入りしている。ここにきて進展があったのだろう。

「幕府の中でも禁門の変によって状況が大きく変わりました。特に軍艦奉行であった勝海舟が先日、操練所生徒の長州方への参加の責を問われ、江戸に呼び戻されました」

「それが屍生技術とどう関係があるのですか」

「勝は佐久間象山の門弟だ」

 無言であった斉藤が今日始めて口を開いた。

「なんと!」

「本題はここからです。実はその勝海舟が江戸に召還される直前、薩摩藩小松帯刀と密命を結んでいたことが分かりました。その内容は京に潜伏する操練所生徒数名の保護と引き換えに彼らの誰かに託した死生技術の資料を引き渡す事でした。」

「成る程ね、戦争での活躍だけでなく、死生技術までもが薩摩藩の手に渡るのは会津藩ひいては新撰組にとっても不利なことだ、っていうわけだね」

 藤堂が口を挟む。確かに死生技術どうこうよりも薩摩が絡むとなると、上の事情も絡んでくるという事だ。ここでの活躍が新撰組の更なる拡充、山南の影響力に繋がっていくというわけだ。

「そうです。薩摩藩や他の追手よりいち早く彼らを捕らえ、死生技術の奪取、及び流出を防ぐことが今回の我々の任務です」

「それはそれは、なんとも我々向きの任務でありますな」

「生徒の人相や特徴は既に一覧にしています。各自、頭に入れておいて下さいね」

 山南は紙切れを3人に手渡した。どうやら対象はそれほど多いわけではなさそうだ。

「どれどれ」

 小佐吉は一覧の中のある名前に目が留まった。それは以前に藤堂から聞いた名だ。その隣では藤堂も愕然としている。

 坂本龍馬 五尺六寸、土佐訛り……

(第18話終わり)