ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜

考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SF小説『草莽ニ死ス ~a lad of hot blood~』 第21話

★マーシャルです。何も言い訳はしません。早速見てください。

 

「……さて、海軍操練所塾生の捕縛にあたって、今回は会津藩を通してある方々の紹介と協力を頂くよう指示がでています」

 山南は話を続ける。しかしその説明はいつもとは違う、妙だ。

 新撰組が、さらに言えば死生技術が関わってくる任務において他の組織と協調するとは……。やはり今回の件は新撰組だけの事案という事ではないのだろうか。

「そのお相手とは」

土佐藩の方々です。一覧を見た通り、塾生の多くは土佐脱藩藩士が占めています。身柄の引き渡しを条件に彼らの潜伏先と思わしき場所の情報を提供していただけるそうです」

「京都で浪人や浮浪者が集まる場所は新撰組の方が詳しいでしょう、それなのに何故」

「今回の任務では迅速な対応が必要となります。我々に必要なのはあくまで技術、そうであるのならば目的は一致し協力するのは必至では」

 そう山南どのに言われれば納得せざるを得ない。

 一方で、藤堂どのも何処か腑に落ちていない様子だ。斉藤どのについては全く読めない。

「藤堂君は小佐吉君を連れて土佐藩邸に向かって下さい」

 山南どのの顔はいつもと同じく平然とそこにあった。

 

 昼過ぎに、小佐吉と藤堂は土佐藩の屋敷の前に着いた。門番に用件を伝え、しばらくすると門が開いた。

 藩邸から出てきた男は痩せぎすではあるが長身で身なりが整っており、見るからにそこいらの浪人とは振る舞いが明らかに異なる。

「お待たせいたしました、新撰組の方々ですね。」

「あなたが福岡どのですか」

「はい、今回は協力感謝します」

 社交的ではあるが、毅然としていてどこか威圧を放っている。気持ちで負けるわけには、と思っていたら藤堂どのが返事に応えた。

「我々は任務を全うするまでです、情報を頂ければその日の内には迅速に事を収められますよ。早速情報を」

「まずはこちらに。お話は途中で」

 

 福岡は歩きながら説明を始めた。

「我々の京都での目的の一つには、藩内の勤王派の急進であった武市半平太が率いた勤王党員の残党の捕縛があります」

「捕縛ですか、今時意外でもありませんが穏やかではありませんね」

「ええ、元々武市についた勤王派には土佐を脱藩した、ならず者も多くいまして。国元だけでなく京でも多くの蛮行が分かっています。ここでの信用は国全体の信用にも関わりますので、我々も必死です」

 無理もない、会津と薩摩が大局を制してからこれまで尊王攘夷だった土佐は時流に遅れまいと大粛清の真っ最中だと専らの噂だ。ここでの活動も既に利用価値の無いその武市とやらの粗を少しでも見つけようとのことであろう。

「ですが、それが今回の件とどのようなご関係が」

「ご存知とは思いますが、海軍操練所には土佐を脱藩した者が大勢在籍していました。彼らの動向を探ろうと我々も近藤という男を送ったのですがここ最近連絡が取れなくなりました。おそらく脱藩浪人と行動を共にしているのでしょう」

「成る程ね。でも肝心の連絡係が寝返ったんじゃ、情報も何もないんじゃない」

「ある程度、近藤の行き先には目途がたちますよ。それにもう一つ」

 そこで福岡は立ち止まった。目の前には土倉が建っている。

「既に重要な人物を我々は捕らえていますので」

 

 土倉の鍵を鍵束から探しながら、福岡は話を続ける。

「先日、藩邸前をふらついている浮浪者を門番が怪しみ捕らえました。本人は鉄蔵と名乗っていましたが、どうも言動がおかしく綿密に尋問をしてみたのです。すると……」

「彼は京で逃げ回っていた勤王党員だと」

 どうして毎度、藤堂どのは結論を急ぎたがるのだろうか。

「……ええ、彼が白状したのは武市の側近しか知らない当時の暗殺計画でした」

 福岡の顔が険しくなる。

「それも実行者しか知らないような詳細な。やつれて人相が変わっていますが、我々はこの鉄蔵が「人斬り以蔵」ではないかと踏んでいます」

 まもなく錠が外れ戸が開いた。土倉の中は暗く湿気ていて、鬱屈としている。

「それはまた本当ですか、真であったら大物ですな」

「ええ、彼は勝や操練所塾生とも関わりがあったようですので今回の件でも何かを知っている可能性が十分あります。ですからまずは直接、問いただす方が良いと思いまして」

 福岡は目と脇差の柄で奥を指した。確かに奥には柱に後ろ手に縛られた男が居た。

「確かにそうだね。じゃ小佐吉、頼んだよ」

「えっ、自分ですか」

「適役でしょ。僕はあんな人斬り相手にお喋りなんて辛気臭そうでヤだし」

「そんなぁ」

 小佐吉は恐る恐る男に近づく。以前、あった時はとてつもない殺気に怖気づいたものだ。まさかまたこうして会うことになろうとは、

「い、以蔵どのでありますか」

「……本マ、酒で後ろから……森、大カワ、渡辺……ヨ道で」

 生気を失い、項垂れ返答は支離滅裂で返って来ないが、確かに以前見た岡田以蔵の容貌に似ている……気がする。

 身に纏うぼろがはだけた上半身は傷と痣だらけであり、凄まじい拷問の痕が伺える。

「ま、また手酷くやられたものですな。じ、実は折り入って聞きたいことがあるのですよ応えていただきますよ」

「上ダ、長野と……其の女、ゼンブコロシタノニ、タケ市センセィ……ドウシテ」

「海軍操練所にいた塾生のことです、何か知っていますか」

「勝ハ、殺ラナカッタ、……約ソク。其レでセンセィに怒ラレテ」

 通じているか分からないが、とりあえず話を続ける。

「彼らの名前に心当たりは、陸奥陽之助沢村惣之丞坂本龍馬……」

「リョ、龍馬」

 始めてこちら側の質問に言葉を返し、反応した。

「!、坂本龍馬を知っているのですか。彼は今どこに」

「龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、龍馬、」

 口をあけてその名前を連呼する。その様子は狂気を感じずにはいられない。しかし何か変だ。未だ人とはこのように生気が感じられない者なのだろうか。

 

 意味のある、無意味な連呼のさなか、小佐吉は汚れと血で汚れていて気がつかなかったが汚れに隠れてくびに無数の穴があいていて、そこから煙が出ているのを見つけた。

「こ、これは」

 小佐吉は急いでその場から飛びのいた瞬間、以蔵の頭がはじけ飛んだ。

「なっ!」

 あまりにも突然なことに福岡は腰を抜かしたようだ。その隣で土倉の戸に隠れ首だけ出してこちらを覗く藤堂が苦笑いで答える。

「全く、とんでもないものを掴まされちゃったね」

 砕けた西瓜のように残った頭蓋からは下顎だけがいまだに動いて意味の無い言葉を発しようと続けていた。

(第21話おわり)