ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜

考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

【草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜】第23話

※どうもいがもっちです。最近主人公の小佐吉を全く書いていないような気がします……。

 

「おまん、わしに何か隠して企んどることがありゃせんかえ?」

 

•男の名は近藤長次郎。その企てとは一体……!?

【草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜 第23話 『策謀』】

 

 近藤の目が開かれる。

 ……まさか龍馬はわしの策に気づいたとでもいうがか?

 近藤は内心の焦燥を悟られないように、

「ええ、何を言うちょるがか。龍馬、わしはおまんに何も隠しちょらーせんきに」

 と、龍馬のお猪口に酒を注ぎつつ言った。

「ほんまかえ? どうもおまんは何かを隠しちょるように見えるがのう」

 注がれた酒を一気に飲み干す龍馬。

 お猪口はすぐに空となった。

「おまん旧友をも疑ちょるいうがか? わしは寂しいがぜ」

 再び近藤が龍馬のお猪口に酒を注ぐ。

「旧友がじゃきこうして隠し立てなく聞いとるがぜ。おまんの心配をしていっちょるがき。のう? 長次郎」

 いつの間にか龍馬は酒を飲み干し長次郎の目をまっすぐに見ていた。

 笑顔の瞳の奥に隠された獰猛な獣のようなそれ。彼の内に秘められた闘志とその力は窺い知れなかった。

 ……ダメじゃこの男にはすぐんにバレてしまう!

 覚悟を決め「わしゃあ何も……」と目を瞑って最後の抵抗をした瞬間だった。

「そうかえ。ならええがぜ」

 あっけなく龍馬が引き下がった。

 近藤は思わずずっこけそうになるのをこらえ、

「急じゃのう」

 とびっくりしたように言った。

「んん? だって違うんじゃろ? ならええがぜ。疑うて悪かったのう。せっかくの酒が不味くなってすまんかったのう」

 豪快に笑いながら今度は龍馬が近藤のお猪口に酒を注いだ。

 ……全くこの男には敵わない。

 近藤はそれに応じながらも心の中はまだ冷や汗をかいているのだった。

 

           ○○○

 

「おう、久坂じゃねーか」

 京の都のとある御所で大柄の男が久坂玄瑞に声をかけた。

「ああ、これはこれは後藤殿ではございませんか」

 久坂はハットという名の異国の帽を手で取り一礼をした。

 大柄の男の名は、後藤象二郎土佐藩士で土佐藩においても山内容堂などの信頼を勝ち取りそれなりの地位を築いている男だ。

「ったく、毎度、毎度、会議ってのも面倒だよな。あの爺さんは会議のことをエムティージーとか意味不明な言葉で表現するしよぉ」

 手を頭の後ろで組み合わせぶっきらぼうに後藤が言う。

MTG……おそらく会議の異国語『Meeting』のことを略しているんでしょう。英語を学んだ後藤殿ならお分かりでしょう」

「おお、そういうことか。『Meeting』をいちいち略すなよ爺さん」

「あの人にとって時とはまさに金なり。1秒とて無駄にはできないのでしょう」

 久坂の言葉に「そのための死生術だってのに本末転倒じゃねーか?」と文句を呟いた。

「ぼぼっ。後藤殿はなかなか面白いことをおっしゃる」

 突然、後ろから冷静な声だが陽気な口調の男が現れる。

「これはこれは大久保一蔵殿」

 久坂は後藤にしたのと同じように礼をする。

「いや、今は大久保利通殿と言った方がよろしいでしょうかね」

 大久保利通薩摩藩藩士で今や薩摩切手の軍神西郷隆盛と小さい頃から旧知の仲の男だ。

「ぼぼっ。さすがは久坂殿。私めのような小童の改名をいちいち覚えていてくださるとは」

 髭を摩りながら大久保が言う。

「俺が言った言葉のどこがおかしいんだよ?」

 やや食い気味で後藤が大久保に訊ねた。

 大久保は「ぼぼっ」と笑い、

「まさに後藤殿の言う通りで。不死を求めるとは永遠の時間を手に入れるということ。永遠の時間に手に入れるということは時間に縛られないということ。そのような不死を求めている方が誰よりも時間に縛られていることを滑稽だと後藤殿は嗤ったのでしょう? いやはやなりに合わずになかなか知的な方だと思いまして」

「誰が図体だけのうすらとんちんだ!」

 後藤が大久保の胸ぐらを掴んだ。大久保は焦ることもなく「ぼぼっ」と笑う。

 まあまあ、と久坂が後藤を止め、

「同志だから仲良くするといきましょう」

 そう言って三人はとある扉の前に立つ。

 中を開けるとすでに何人かが会議椅子に座っていた。

「きたか……」

 上座に座る男はそう言った。

 

          ○○○

 

 新撰組の屯所。

 山南は庭に立って夜空を眺めていた。

 着流しの袖に両手を入れ何をもの思っているのだろうか。

「これはこれは山南先生」

 華麗で清く流れるような声がする。

「どうされましたか伊藤先生」

 山南は振り返り微笑みを浮かべながらそう言った。

「月を眺めておられたのですか?」

 伊藤が山南に訊ねる。

「ええ、考え事にはちょうど良い夜です」

 山南はそう答える。

『なげけとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな』

 突然、伊藤が一句歌った。

「月で思い出すのはこの一首ですかね」

「そうですか。恋の歌は私は合わないので……」

 そう言って山南も一句。

『天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも』

「安倍仲麿ですね」

「ええ、遠い故郷に思いを馳せる。私はこの歌を故郷だけではなく昔の時にも思い重ねています」

新撰組設立時でしょうか?」

「もっと昔です。近藤さんや土方さん、斎藤くんや藤堂くんと会ったとき。多摩の試衛館時代です」

 そう言って山南は伊藤の方を向く。

 笑みを浮かべた顔。しかしその両の目は笑っていなかった。

新撰組は変わってしまった。あなたの加入もそれを物語っています」