歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜』

ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜 考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』 第2話

•第2話は管理人であるいがもっちが務めます。好きな時代は幕末。完全に管理人の好みが設定に表れてしまいました。活字に慣れていない人が楽しめる。そんな小説を書けたらなと思っています。

☆死児さらいを捕まえて新撰組に入隊しようとする小佐吉がとった行動とは?

 

 

「若様、若様」

 

 子の刻。皆が寝静まったお屋敷で小佐吉(こさきち)は隆晴(たかはる)を起こそうとする。

 

「う、うーん。小佐吉かい? なんだってんだい。こんな真夜中に」

 

 目をこすりながら不機嫌に隆晴は答えた。

 

「若様。今から刀を持って出かけましょうぞ」

 

 

 半月が霧にかかって京の暗闇の街に薄明かりを灯す。静寂な屋敷と屋敷の合間を小佐吉と隆晴はひそひそと歩いていた。

 

「こんな真夜中に出歩いて。しかも家内の刀も持ってきちまったし。父ちゃんに見つかったらまた、しばかれちまう」

 

 ぶつくさ小言を吐きながらも隆晴は小佐吉についていく。

 

「申し訳ございません、若様。ですが我々が今からやろうとすることを知れば眠気も心配も吹き飛びまするぞ」

 

 隆晴とは正反対で小佐吉は意気揚々としている。

 

「一体、何をするってのさ」

 

「『死児さらい』を捕まえまする。それができますれば晴れて我々は新撰組の仲間入りができますぞ」

 

「『死児さらい』ってまじで言ってんの? 小佐吉」

 

 苦笑せずにはいられない隆晴。冗談だと思っているらしい。

 

「何者かもわからないんだよ? それに俺たち日頃から練習はしてっけどさ、今の今まで刀で人を斬ったこともないんだぜ? それに小佐吉は剣技が得意なわけでもないしさ」

 

「確かに我々だけでは無謀やもしれません。ですがこれぐらいの気概がないですと新撰組には到底は入れませぬし、入ったとて活躍なんぞできませぬ」

 

「そりゃそうかもしんないけどさ。もうちょっと計画ってのを立てよーさ」

 

「思い立ったが吉日。いや吉瞬ですぞ。やろうやろうと思っていてもいつまでたっても進みませぬ。一生町人のままで良いのですか? 隆晴どの」

 

「……だけどさぁ。第一どこの墓地に出るかもわからないってのにさ」

 

「それは大丈夫です。一つ一つしらみ潰しに見て回りましょうぞ!」

 

 勢いだった小佐吉の気に押されながら隆晴は彼に付いて回るしかなかった。小佐吉は言葉通りに一つ一つの墓地を回っていった。

 

「ねぇ、小佐吉。もうやめよーよ。疲れちゃったし眠たいしさ。そんな都合よく『死児さらい』も現れるわけないさ」

 

 7、8つの墓地を回ったところで隆晴は根をあげた。彼は何より『死児さらい』に出くわすのが怖かった。

 

「なんのこれしき。次の墓地に行ってみましょうぞ!」

 

 小佐吉はぐいぐい歩を進める。新撰組への尋常でない憧れが彼をそうさせた。

 

 京の市中からやや外れた龍安の衣笠山付近の墓地へと二人は足を運んだ。

 その墓地は明らかに他の墓地と様子が違った。

 墓地近くに守護の者がうろついていた。

 

「あれが『死児さらい』? それとも死児さらいが現れたのかな?」

 

「もう少し中に行って様子を見てみましょう」

 

 二人は守護の目をかいくぐり墓地中心から外れた裏山から中の様子を見ることにした。

 

「あれは?」

 

 目のいい小佐吉が何かに気づく。二人は山の草木の茂みに隠れて墓地を見下ろした。10人もいかないが、コソコソやっている集団がいる。よくよく見ると膝丈寸の土の山ができている。その横には布地に包まれた少年の背丈ばかりのものが置かれている。

 

 ーー死児さらいだ!

 

 二人は何も言わずとも目配せでお互いの意を察した。

 下っ端らしき者たちが布地の、おそらく死児を運び出していった。

 

「おい、小佐吉。もう帰ろうぜ。どのみちあの人数相手じゃ無理だよ」

 

 隆晴は声を震わせた。

 

「そうですね。ここは一旦引きましょう」

 

 流石の盛んな小佐吉も無鉄砲さを省みて引き上げようと思った瞬間だった。 

 

「そこで何やってんだ。お前ら」

 

 後ろから来た声に二人はビクッと体を反応させすぐさま振り返った。

 

「なんだ子供(がき)か……その腰につけてんのは刀か」

 

 二人は全く動けないでいる。

 ーーなんだこの威圧感は。今まで会ったどの大人とも違う尖った殺気を纏っている。

 自分の心臓が目の前にあるかのように動悸が早まっているのが小佐吉はわかった。

 

「まあ、でも見られたもんはしょうがねーな」

 

 男が動いた。

 

 

「……これで全部ですか。引き上げましょう」

 

 墓にいる集団の長は部下たちに指示を下した。

 

「見回りをしている斎藤くんたちにも声をかけてください……おや? あれは斎藤(さいとう)くん?」

 

 長の目の先には子供二人を抱えた斉藤の姿があった。

 子供二人は気を失っていた。

 

「おや、どうしました? 斎藤くん。迷える子羊2匹を捕らえろとの命令は出していなかったですが」

 

「山南(やまなみ)総長。どうする? こいつら。見てたぜ。おそらく。一部始終を」

 

 斎藤は表情を一切変えず低い声で冷静に語った。

 

「それは困りましたね。どうしたものか。私たち新撰組の邪魔になるような者は子供といえど容赦することはできない……」

 

 

(第2話終わり)