歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜』

ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜 考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SFリレー小説『草莽ニ死ス ~a lad of hot blood~』第6話

★担当はマーシャルです。いまだに文章になれていません。ですが、バトンを取りこぼすわけには、タイトルが決まり改めてスタートです!

 

「さて、どこから君たちにお話しをしましょうか……」

 小佐吉は今まさに憧れであった新選組の、それも町人からも“サンナンさん”と慕われている総長、山南敬助と対面していた。これまでを考えれば願ってもない事だ。その周りを隊士達が囲って座りこちらを睨みつけるようにしていなければ……。山南さんもその表情は鋭くいかめしい。

 あの後何が何だか分からないまま斬り合いに割って入ったのはいいものの、何が何だか分からないまま相手には逃げられ、今度は周りの浪士に太刀を向けられ何が何だか分からないまま、八木亭こと新選組屯所に連れてこられ、今に至っている。

 道中は(若様が目覚め、一悶着あったものの)皆全くの無言で自分達を襲ったのも、墓場に居たこの集団が新選組だと分かったのも全ては屯所に着いてからの事であった。

 どうしよう、小佐吉はなんとかこの場から穏便に若様と自身を五体満足で(出来れば賢晴様に怒られないよう明け方までに)抜け出せないか脳内を総動員して考えていた。

 恐らく最初に気絶させられたのも、あの場に居た隊士が皆いつもの浅葱色の羽織を着ていなかったのも何かあっての事だ。自分達は見てはならない所を見てしまった。

 若様もそれについては十分理解しているようで、屯所についてからは借りてきた猫のようだ。

「あの、私たちは死児さらいを捕まえたくて」

 とりあえず、なんとか言ってみようと切り出してみた、

「……」

「あ、……」

 しかし、沈黙がそれを許してくれない。静寂は再び保たれる。

 

「先にこちらから君達に色々教えましょう」

 山南さんがようやく沈黙を破った。

「巷の死児さらい、その一部は私たちの行いです」

 なんと!思ってもないことである。まさか、死児さらいの犯人が新選組だったとは

「ですが、我々が死児を集めて回っているのには理由があります」

「理由?」

「はい、お二人は死生術をご存知ですか」

 山南は淡々と問いかける。突然話が変わったことに不意をつかれた。

「シセイジツですか、たしか死者を甦らせる洋学の1つだとか」

 浦賀に黒船が現れて以降、様々な噂が京都でも飛び交っている。

 曰く、“異人は死人を甦らせて使役している”

「おれは清国の道士の術だとか、ブウドゥとかいう南蛮の咒の1つだと聞いたぞ」

 若様が言うように死生術に関してだけでも様々な話しが出回っている、何でも天子様が兵庫港の開港をお許しにならなかったのも、異人が使う穢れた死人を京に入れないためとか、そのような取り留めの無い類いもののはず。それを今、何故?

「死生術は咒ではなく、医学のようなれっきとした学問の一つとして存在しています」

「でも実際に死体が動くなんて」

 にわかには信じがたい事である。

「いえ、君達はもう実際に彼らを見ているはずですよ」

 山南の目は二人をじっと見据えていた。咄嗟に目を他の隊士達に逸らした。

「死者は瞳孔が開いたまま、表情は凍りまばたきもせず、一挙一動に無駄がない」

 まさか、辺りを見回し視線を山南に戻した。

「ええ、この間に居る私とあなた達以外、皆その死人ですよ」

 辺りは一段と静寂となった気が小佐吉には感じられた。

 

浦賀に入ってきた死生術は当初、死人は動きものろく荷物運びなどの雑役しかこなせないような粗末なものでした。ですが、ある学者によって僅か2年と半年後には死人は一見すると生者と同様に動き、また限定的にですが生前体得した技を劣化することなく振るえるようにまでになりました」

 小佐吉と隆晴の戦慄した様子にも関せず、山南の話は続く

「我々の任務はこの技術を奪わんとする不逞浪士共の脅威から京を守り、そして技術の原点を作った学者、佐久間象山の死生技術の写しを回収することにあるのです」

 

(第6話おわり)