歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜』

ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜 考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜 第14話

いがもっちです。

佐久間象山なんでまだ生きてんの? 河上万斉に斬られて禁門の変ではもう死んでいるよね?」

という質問にお答えします。

万斉に斬られた佐久間は死生術を用いて作られてクローン佐久間です。

 

禁門の変にて三浦をうまい具合に操り新撰組が戦場へと赴く口実を作った小佐吉は、今回の禁門の変の首謀者である長州藩、久坂や寺島が朝廷のおわす鷹司邸へ向かったと聞き、三浦とともに鷹司邸に乗り込む。

 

 瞬殺だった。

 改めて言おう。
 瞬殺であったと。
「あんたいくらなんでもそりゃ弱すぎだ!」
 お魁は銃を久坂に構えながら小佐吉に突っ込んだ。
「面目無い」
 瞬殺であったと言ったが小佐吉にまだ息はあった。
 だが勝負はついていた。
 三浦が小佐吉に手傷をつけ今は馬乗りになり刀の切っ先を小佐吉の首にあてがっている。
「はっはっはっ。まるでクラスで一番つえーガキ大将に刃向かうも全く歯が立たない優等生君じゃあるまいしよ。学級委員長ちゃんも呆れ果てるだろうよ」
 はっはっはっ、と久坂は笑う。
「わかんないけどさ、あんた鍛錬がどうのこうの言ってなかったっけ? フィクションの世界じゃ完全に無双する流れだったじゃない!」
「無駄のない動きまことに見事であった。が、あまりに遅すぎる動き残念極まりない」
三浦もあまりの手ごたえのなさにやる気の半分も失っていた。
「この滑稽な喜劇をもう少しゆっくりご覧したいところなのだがねぇ。あいにく俺はこの後、用事が詰まっちゃっているもんで。はぁー、人気者の辛いとこだねぇ」
 久坂は三浦に向かって「ねぇ、もういいんじゃない?」と言う。
「そうだな」三浦はそう言い小佐吉の首を斬りにかかる。
「ちょっと……!」
「おっと」
 お魁が急いで三浦に小刀を投げようとするも久坂の銃口に牽制される。
「出来損ないがお世話になった」
 三浦が刀を振り下ろそうとした時、
「残念ですな。死生術の写しは拙者が持ってるんだけどなぁ」
 小佐吉の言葉に三浦の手が止まり、久坂がピクリと反応する。
「出来損ないだから奪うのは簡単でござったよ。死生術の写し」
 小佐吉は不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ……」
 久坂の表情から若干の余裕が消える。
 三浦は止まったままだ。
 お魁は状況を飲み込めず右往左往している。
「どこで、いつ気づいた?」
 久坂が小佐吉に訊ねる。
「たまたまでござる。あいつ自身に死生術の写しを隠すとは象山先生もなかなか小粋なことをしてくれまする」
 実は小佐吉もことの始終をすべて分かっているわけではなかった。
 全ては推論。今までの状況と今こうして久坂や三浦が現れたことを踏まえての推論に過ぎなかった。しかし、三浦や久坂の反応を見て小佐吉の予想が確信へと変わる。
「一種のお遊びのつもりだったんだけどねぇ。ご名答。灯台下暗しとはまさにこのこと。死生術は出来損ないちゃんに隠されていました。先生の死生術の写しを探す新撰組のそばにあえて写しを置く。けど、あまりにこの出来損ないちゃんが騒動ばっか起こすから我慢できなくなってしまったんだよねぇ。先生も。だから殺(や)りにきちゃったってわけ」
 久坂が拍手をする。「けどーー」話を続ける。
「ねぇ君。本当に君が持っているのかい?」
 久坂は小佐吉に鎌をかけた。久坂も死生術の写しがどんなものかがわかっていない。象山にはただ「(新撰組の)三浦の首を持って帰れ」と言われただけだ。おそらく三浦の頭に何か隠されているのだが久坂でもわからない死生術の写しを、たとえ三浦に隠されていることはわかったとしても、果たしてどこに隠されていてどんな形態かこのガキにわかったものだろうか? ガキがハッタリをかましているだけではないか?
 久坂に疑われていることは小佐吉にはわかった。事実、久坂の疑惑通り小佐吉は三浦自身に写しが隠されていることはわかったが、写しがどんなものか分からず奪うことはできていない。フェイクだった。
 久坂の疑いを消し去るにはもうひと押し何かが必要だった。
「そんなもの教えるわけがないでござる。ですが安心されよ。まだ写しのことは新撰組にも申してござらんゆえ。取引といこうではござらぬか。写しのありかを教える代わりに我らを無事解放する」
「おうおうおう。ガキのくせに一丁前に危ない大人ごっこなんかしちゃって。いや、わかるけどね、こそこそタバコ吸いたい子どもの気持ちは……」
「迷っていていいのでござるか。この後の会合に遅れるでござるよ。薩摩やら土佐やら知りませんが」
 これはもう一つの推論だった。対立している言われている長州と薩摩。その両者が実は裏ではつながっているのではないかという推論。佐久間を筆頭とする土佐や長州や薩摩との結びつき。久坂が鷹司邸にやってきたのも死生術の回収とその後の藩の代表者の会合。この鷹司邸が佐久間らの屍研究の拠点であると同時に秘密会合の場ではないのか。
「どこでそんな悪いお遊びを覚えたんだか……仕方ないねぇ。三浦っち」
 久坂はそう言って三浦に小佐吉から離れるよう指示する。
 久坂の反応を見る限りどうやら小佐吉の推論は程度はどうであれ少なからず当たっているみたいだった。
「あんた何もんよ」
 お魁が小佐吉に訊ねる。
「いやいや。拙者はしがない新撰組の雑用係です。そしてーー」
 何人かが屋敷に忍び込みこちらへ近づいてきている。
 小佐吉の一番の目的。
 それは新撰組の他の隊員がここに来るまでの時間稼ぎであった。
「未来の新撰組隊士でございまする!」