歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜』

ク・セ・ジュ 〜月夜に君は何を想うか〜 考えるということは、要するに自分で何か映像をつむぎだしていくということだ。何かが、あたかも自分の眼にはっきりと映るかのようにしていくのが「考える」ことだ。どんな人でも、結局はそういうふうにして考えている

歴史SF小説『草莽ニ死ス ~a lad of hot blood~』 第27話

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 月に照らされ、夜に集まった魑魅魍魎共。

 中でも坂本の存在だけは飛びぬけて目立っていた。それは彼の大柄な体躯だけでなく、醸し出す雰囲気の独特さであった。

 その場の雰囲気など意にも介さず、終始ニコニコと笑顔を崩さない。

 彼は藤堂に気づいた。こちらの方に興味を示し、近寄ってきた。周りでは、対照的に殺気がまき散らされているというのにも関わらず。

「おおっ、おんしはひょっとして藤堂くんか、今宵はほんに懐かしい顔がそろうのぉ」

 坂本は自身の命が狙われていることも他人ごとかのように藤堂に駆け寄り、肩をバシバシ叩く。

藤堂どのはそれにたじたじだ。苦笑いをしている。

「久しぶりです。坂本さん」

 あの藤堂どのでもこんな顔をする時があるなんて、申し訳なさそうに縮まっている。

「千葉先生の道場でおうた以来か、懐かしいのぉ。そうか、藤堂くんは新撰組になったがかぁ、そうかぁ」

 今度はなんとも悲しそうな顔になる。まるで飼っていた子犬が逃げ出したように、なんとも表情がコロコロと変わる人だ。

「すまんのぉ、もう新撰組の連中とは遊ばんと決めたんじゃ。それにちぃと急ぎでのまた会おう」

 坂本は背中を向けて堂々と歩き出した。ここまでの間、その場のペースはまさに命が狙われている真っ最中の彼のものであった。

「逃げるのか坂本!」

 ここで、ようやく雰囲気にのまれていた外野の一人が声を荒げた。

 坂本は不敵にも、笑みを浮かべる。

「おう、逃げるがじゃ。おんしらみたいなよう分からんもんとも遊ぶ気は無い。わしは忙しいでの」

 坂本はずっと懐に入れていた右手を取り出していた。手にはリボルバーが握られてる。以前、墓地で岡田以蔵が使っていたものと同じ形だ。

 ダァン!!!

 間髪を入れず、銃口から火花があがった。

 次に黒装束一人が倒れた。それにより、隣の者にわずかであるが隙が生まれた。

 坂本達はその期を逃さない。勢いよく、体当たりをかますとその勢いのまま走り出した。

「近藤、半次郎さんのところまで逃げるがじゃ。きっとなんとかしてくれるはずじゃ。」

「ええ、もうそれしか無いでしょうね!」

 近藤はもはや半分ヤケになっているように聞こえてくる。

「ほんじゃあの、藤堂くん!またどこかで!」

 坂本の声もだんだんと遠くなっていく、その声もどこかたのしそうであった。

 

 黒装束の残りが後を追おうとした時、また一人いきなりに倒れた。

「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜよ」

 そこには坂本の笑みとは似つかぬニタニタとした笑みを浮かべ、血に濡れた脇差を握った岡田以蔵がいた。

 (第27話おわり)