歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』第5話
☆いがもっちです。自分の回では時代背景を膨らませる描写が弱くなってしまいがちです。そこが一つ課題ですね。前回、ピンチのノグチ。ノグチの頭に降り掛かるのは刀か? それとも上司たちからのプレッシャーなのか?
「しまっーー」
ノグチはとっさの防御すらとることができない。
「じゃあねぃ♪、お前もばいばい」
以蔵の刀剣が降り下ろされる。
続きを読む歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』第4話
●こんにちは。第4話はゴクツブシ米太郎が担当します。バトンがようやく一巡しました。楽しく書きました。物語の全体像がふわっと見えてきたような見えないような、まだつかみどころがないなぁと、そんな感想をもちました。
人呼んで人斬り以蔵――ここ数年、攘夷派の土佐勤王党に与して京都に潜入し、あまたの役人を誅殺してきた第一級の危険人物である。幕府お膝元の新撰組にとっては当然、即刻つぶしてしまいたい目のかたきだった。
――この二、三ヶ月は沙汰も起こさず、杳として姿をくらませていたようだが。
突如、月明かりの下に姿をさらした以蔵を、山南は注意深く観察する。
――意味もなく我々の眼前に現れるような男でもあるまい。
「まだ人斬りって呼ぶのかい? 俺のことを?」
以蔵は女のように細い指で、着流しの大きく開いた胸元を掻きながら、甲高い哄笑を漏らした。
「近頃はさぁ、人でもねぇようなものばかり斬ってる気がするけどねぇ。そっちのほうがおもしれぇから、もう人を斬るんじゃ物足りんかもねぇ」
総長、下がってください、と若い隊士が一人、山南の前にずいと進み出て刀を構えた。血気盛んなこの若者は、一思いに以蔵を斬り伏せるつもりらしい。山南は反射的に叫んでいた。
「ばか、よせ!」
「さよーなら」
そうつぶやいた以蔵の抜いた刀が蛇のようにしなって若い隊士の身体を打った、
打たれた隊士は血しぶきを噴いてくずおれた。
胸から腸まで届く長い裂傷が刻まれたその身体は、一瞬にして事切れていた。
「山南さんっ」
ノグチが有無を言わさぬ調子で山南を庇わんと後ろに押しやり、以蔵の前に立ちはだかる。以蔵はノグチを指差してにたりと笑った。
「そう、お前みたいなやつと話がしたかったんだ。京の大人たちの流行り唄で耳にしてねぇ、『生きてもつまらん往(い)んだろか 往んでも逃げれん生き地獄 骸(むくろ)を誰かが掘り出して 虚ろな遊びをしたるんか♪』ってねぇ。見るにつけ、お前が蘇らされた死体ってとこだろう?」
「お前なんぞに教えることなど何も無い。覚悟して散れ!」
ノグチは風のごとき速さで以蔵との間合いを詰めると、刀を振りかぶった。以蔵はひらりとかわして反撃の一太刀をノグチに浴びせる。しかし、それが見切れぬノグチではない。身体をよじって刀で受け止めた。鍔迫り合い、金属の軋む音が静かな墓地に響き渡る。
ノグチは怒鳴った。
「岡田、貴様の狙いは何だ!? 京の都に何の用がある?」
「狙い、というかまぁ、そうだねぇ……。お前たちのやってることが生者の再利用だとするならば、俺たちのほうは……死が生の次のステージになるというか……。そういうことかもしれないねぇ」
「何だと?」
予想外の回答に集中力が途切れたノグチの隙をつき、以蔵がノグチの足を払う。
「しまっ――」
転んだノグチの頭上から、真っ直ぐ刀が振り下ろされた――
(第4話おわり)
歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』 第3話
・第3話はマーシャルが担当させて頂きます。テーマを聞いた時、「幕末、SF『銀魂』かな?」が最初の感想でした。
☆隆晴と小佐吉の前に新選組の脅威が襲い掛かる!
容赦することはできない……」
山南は所謂、“優男”ではあるが己の立場をわきまえず自身の些細な偽善を満たさんがために全てを台無しにする男では無い。組織を改め、新しく新撰組の特別な部隊の長となった彼の一挙一動がこの場にいる隊士、ひいては今後のこの「作戦」に影響が及ぶことも十分に理解していた。
此度の作戦においては、事前に土方や永倉らと新たに「屍浚法度(しざらいはっと)」なる隊規を策定し、この任務にあたる隊士達に徹底させている。今まさにこの商家の子ら二人を斬らねばならないのもこの法度に定めたことに従って行わねばならぬ事だ。「隠密ナレ。見付レバ即チ討捨ルベシ」。隊規は絶対であり、そこに私情が介入することは一切許されない。
しかし、絶対の規則と揺れ動く私情の間にやはり疑問を拭い切れずにいられなかった。芹沢ら水戸派の粛正後、局長となった近藤とは江戸にいた頃からの付き合いであり尊敬に値する人格者だ。しかし彼やその他の試衛館組と隊の再編成後、距離を取っていた。組織の拡大について異論は無い。しかし今まさに私が、新撰組が行っていることは果たして本当に勤王と言えるのだろうか、士道たり得るのだろうか、それとも近藤はそれ以上の……、
「どうしたんですか、やっぱり山南サンさんには酷なコトですかね?」
突如、思考に軽口が割って入ってきた。気づくと、この隊でも若手で壬生浪士隊の頃からの隊士であったノグチが顔を覗き込ませていた。その瞳は開き、自身の像を映している。
「いえ、なんでもありませんよ。」
思考が表情に浮かんでいなかったかと一瞬、気取ったが相手がノグチで良かった。相手が斉藤であれば少なからず読み取られていたかもしれない。
「しかし隊規とはいえ、相手が無抵抗な子どもでは気が引けますね」
相変わらずノグチは軽口を続ける、この言葉にも深い意味はない筈だ。彼は純真で率直な性格であった。しかし、例えノグチが生来は察言観色な人物であったとしても関係はない。なぜならば彼はすでにこの世の者ではないからだ。
そもそもこの隊に生者は半数しかいない。残りは「屍番」と呼ばれる動く屍である。「死人に口無し」とは今となってはそうは言えないが、思考はない。彼らに残されたのは生者との意志疎通能力と生前に体得した剣技のみである。目は開きながらも、その瞳孔は常に開きそこがより、生者との境界を明確にしていた。
死の恐怖や倫理観に揺れ動かされない彼らを見ていると、自身の考えなどどうでもよくなった。今私に必要なのは、目の前の問題に総長としてどう対処するかである。そもそもこの場に長居することも更なる障害を招く恐れがあることだ。
「斬り捨てなさい。」
出来るだけ冷淡に、用件だけを山南は告げた。
斉藤は抱えていた子ども2人を放り投げ、2人は地面にどすっ、と横たわった。すかさず隊士たちはそれに続き均等な距離を保ちながら辺りを囲み、抜刀した。隊士の内2人が隆晴と小佐吉に斬りかかろうとしたその時、背後の崩れかかった墓石からすさまじい破裂音と共に影が跳んで来た。
―――直後、隊士1人が正面から倒れ、同時に対面した隊士の首を影が刎ねた。隊は突然の出来事に対応が遅れ、影はそのままの勢いを緩める事無くこちらを目掛けて突進してきた。
最初に影の突き立てる刃に対応したのは斉藤であった。彼は向かってくる刃を太刀で撃つと、影は体制を僅かに崩した。しかし、迎え撃つ間もなく影は地面を故意に転がり相対する全ての者と距離をとる。隊は影を囲むものの俊敏な動作とその撃剣に下手に動くことが出来ず、辺りは静寂となった。影が一言も発さない事が一層に人離れした不気味さを強調させる。
霧が晴れ、月光が幽かに影の正体を捉えた。その時隊士の1人が初めて声を上げた。
「おまえは、人斬り以蔵」
(第3話終わり)
歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』 第2話
•第2話は管理人であるいがもっちが務めます。好きな時代は幕末。完全に管理人の好みが設定に表れてしまいました。活字に慣れていない人が楽しめる。そんな小説を書けたらなと思っています。
☆死児さらいを捕まえて新撰組に入隊しようとする小佐吉がとった行動とは?
「若様、若様」
子の刻。皆が寝静まったお屋敷で小佐吉(こさきち)は隆晴(たかはる)を起こそうとする。
「う、うーん。小佐吉かい? なんだってんだい。こんな真夜中に」
目をこすりながら不機嫌に隆晴は答えた。
「若様。今から刀を持って出かけましょうぞ」
半月が霧にかかって京の暗闇の街に薄明かりを灯す。静寂な屋敷と屋敷の合間を小佐吉と隆晴はひそひそと歩いていた。
「こんな真夜中に出歩いて。しかも家内の刀も持ってきちまったし。父ちゃんに見つかったらまた、しばかれちまう」
ぶつくさ小言を吐きながらも隆晴は小佐吉についていく。
「申し訳ございません、若様。ですが我々が今からやろうとすることを知れば眠気も心配も吹き飛びまするぞ」
隆晴とは正反対で小佐吉は意気揚々としている。
「一体、何をするってのさ」
「『死児さらい』を捕まえまする。それができますれば晴れて我々は新撰組の仲間入りができますぞ」
「『死児さらい』ってまじで言ってんの? 小佐吉」
苦笑せずにはいられない隆晴。冗談だと思っているらしい。
「何者かもわからないんだよ? それに俺たち日頃から練習はしてっけどさ、今の今まで刀で人を斬ったこともないんだぜ? それに小佐吉は剣技が得意なわけでもないしさ」
「確かに我々だけでは無謀やもしれません。ですがこれぐらいの気概がないですと新撰組には到底は入れませぬし、入ったとて活躍なんぞできませぬ」
「そりゃそうかもしんないけどさ。もうちょっと計画ってのを立てよーさ」
「思い立ったが吉日。いや吉瞬ですぞ。やろうやろうと思っていてもいつまでたっても進みませぬ。一生町人のままで良いのですか? 隆晴どの」
「……だけどさぁ。第一どこの墓地に出るかもわからないってのにさ」
「それは大丈夫です。一つ一つしらみ潰しに見て回りましょうぞ!」
勢いだった小佐吉の気に押されながら隆晴は彼に付いて回るしかなかった。小佐吉は言葉通りに一つ一つの墓地を回っていった。
「ねぇ、小佐吉。もうやめよーよ。疲れちゃったし眠たいしさ。そんな都合よく『死児さらい』も現れるわけないさ」
7、8つの墓地を回ったところで隆晴は根をあげた。彼は何より『死児さらい』に出くわすのが怖かった。
「なんのこれしき。次の墓地に行ってみましょうぞ!」
小佐吉はぐいぐい歩を進める。新撰組への尋常でない憧れが彼をそうさせた。
京の市中からやや外れた龍安の衣笠山付近の墓地へと二人は足を運んだ。
その墓地は明らかに他の墓地と様子が違った。
墓地近くに守護の者がうろついていた。
「あれが『死児さらい』? それとも死児さらいが現れたのかな?」
「もう少し中に行って様子を見てみましょう」
二人は守護の目をかいくぐり墓地中心から外れた裏山から中の様子を見ることにした。
「あれは?」
目のいい小佐吉が何かに気づく。二人は山の草木の茂みに隠れて墓地を見下ろした。10人もいかないが、コソコソやっている集団がいる。よくよく見ると膝丈寸の土の山ができている。その横には布地に包まれた少年の背丈ばかりのものが置かれている。
ーー死児さらいだ!
二人は何も言わずとも目配せでお互いの意を察した。
下っ端らしき者たちが布地の、おそらく死児を運び出していった。
「おい、小佐吉。もう帰ろうぜ。どのみちあの人数相手じゃ無理だよ」
隆晴は声を震わせた。
「そうですね。ここは一旦引きましょう」
流石の盛んな小佐吉も無鉄砲さを省みて引き上げようと思った瞬間だった。
「そこで何やってんだ。お前ら」
後ろから来た声に二人はビクッと体を反応させすぐさま振り返った。
「なんだ子供(がき)か……その腰につけてんのは刀か」
二人は全く動けないでいる。
ーーなんだこの威圧感は。今まで会ったどの大人とも違う尖った殺気を纏っている。
自分の心臓が目の前にあるかのように動悸が早まっているのが小佐吉はわかった。
「まあ、でも見られたもんはしょうがねーな」
男が動いた。
「……これで全部ですか。引き上げましょう」
墓にいる集団の長は部下たちに指示を下した。
「見回りをしている斎藤くんたちにも声をかけてください……おや? あれは斎藤(さいとう)くん?」
長の目の先には子供二人を抱えた斉藤の姿があった。
子供二人は気を失っていた。
「おや、どうしました? 斎藤くん。迷える子羊2匹を捕らえろとの命令は出していなかったですが」
「山南(やまなみ)総長。どうする? こいつら。見てたぜ。おそらく。一部始終を」
斎藤は表情を一切変えず低い声で冷静に語った。
「それは困りましたね。どうしたものか。私たち新撰組の邪魔になるような者は子供といえど容赦することはできない……」
(第2話終わり)
歴史SFリレー小説『(タイトル未定)』 第1話
●歴史SFリレー小説がはじまります。舞台は幕末の京都。第1話は、清水トミカ(仮)改めゴクツブシ米太郎が担当しました。暇があれば読んで行ってください。どうぞ。
京の町の一角にでん、と構えた町人屋敷、その離れの裏手で空を切り裂くにぶい音が小一時間、もう小一時間もつづいている。
覗いて見れば、汗だくの二人の男が小袖を剥いて上だけ裸になり、一心不乱に木刀を振っている。
「あーあ、ぼく疲れちゃったよ。小佐吉(こさきち)、そろそろ休もうよ」
根を上げたのはこの屋敷の当主、梶尾賢晴(かたはる)の嫡男、隆晴(たかはる)だった。隆晴は木刀を投げ出し、地面にへたりこむ。
「まだまだですぞ、若様!」
小佐吉と呼ばれた男は地が鳴るような大音声で喝を入れた。
「将来、新撰組の隊士となるような御仁には、この程度の鍛錬でへこたれている暇などありはしませんぞ!」
そう叫ぶや否や、木刀の素振りを再開する小佐吉を見上げながら、隆晴がぼやく。
「でもいくら練習したって、剣の技が下手くそなら意味ないじゃん。現に小佐吉は新撰組の入隊試験、落ちてるわけだし」
「落第したからこそ、再起を果たさんと修行に打ち込めるというもの。若様と私のどちらが先に入隊できるでしょうかな!? 競争ですぞ! わははは!」
「いや、でも小佐吉は剣術ドヘタじゃん。ぜってームリ。アハハ」
その時、二人が飛び上がらんばかりの怒鳴り声が轟いた。
「くぉぉぉぉらぁぁ、てめぇら何やってんだ!!」
当主賢晴が出先から戻ってきたのだ。隠れて練習しているつもりだったのだが、小佐吉の大声が聞かれてしまったようだ。
「小佐吉テメー、また剣術などくだらんことをせがれに教えやがって! この害悪畜生め! 門番は門番らしく棒のように突っ立っていやがれ! ぶち殺すぞ!」
「……ふぁい」
小佐吉は俯いて返事をし、すごすごと自分の持ち場に戻っていく。
数ヶ月前、田舎から上京を果たして新撰組の入隊試験を受けるも落第し、意欲も財布の中身もすっからかんの自分を拾ってくれた賢晴には、まるで頭が上がらなかった。
「隆晴、テメーも新撰組に入りたいとか頭おかしいこと抜かしてんじゃねぇ」
立ち去る小佐吉の耳に、賢晴がぷりぷり怒りながら、木刀を真っ二つに折る痛々しい音が突き刺さった。
「町人の子は町人らしく、この家を継ぐことだけを考えていな。新撰組に入ったってアレだぞお前、町のゴロツキひっ捕らえて薄給もらうが関の山だぞ。それより己の力でたんと稼ごうじゃねぇか!」
「分かってるよ、でも……」
「最近じゃ新撰組の評判も悪いみたいじゃねぇか。近藤一派が芹沢一派を粛清したり、例の『死児さらい』を捕まえるのにてこずっていたり……。隊の規模が大きくなるにつれて組織が回らなくなってるんじゃねぇかと俺は睨んでる」
死児さらい、か。
小佐吉はハッと顔を上げた。ここ一ヶ月ほど、京近辺を騒がしている誘拐犯の噂は、小佐吉の耳にも届いていた。なんでも、死児の墓を掘り起こして死体をかっさらっていく、不可解な事件が頻発しているという。犯人は一人なのか複数人なのか、男なのか女なのか、何一つ手がかりはつかめていないときいている。
そいつをひっ捕らえれば、新撰組への入隊が叶うやもしれぬ。
小佐吉の胸に、再び熱い希望が煮えたぎってきた。
(第1話終わり)