草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜 第15話
★マーシャルです。なんかこんな久坂玄瑞、新鮮!って思うの自分だけでしょうか?喋らせてみると楽しいです。それでは15話をどうぞ。
「イア、ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」
小佐吉の威勢を聞いたその時、久坂の背後から断末魔が響いた。声の主は寺島だ。
「て、寺島キュン!?」
久坂が悲鳴の方をふり向くと、そこにはだんだら模様の羽織を着た影が4つ、凛として在った。
「随分と危なっかしかったね、命令違反クン。ですが彼らをここに引き留めたのはお手柄ですよ」
1つは言わずと知れた総長、山南敬助であった。その羽織と太刀は真新しい紅に染まっており、今しがた寺島を切り伏せたのが彼であることを物語っていた。
「山南さん!」
「おっと、斉藤さんにノグチっち、それにボクも居るよ」
見るに山南は藤堂と斉藤、ノグチを引き連れてきたようだ。幕府軍がここを制圧するのにはまだ時間が掛かりそうであるが、邸内の形勢が逆転したのは明らかだ。
「さて小佐吉君、早速疑問なのですが、先ほどの敵が三浦君の首を持っていたのを確認したのですが、私の目の前にも三浦君がいるのはどうしてなのでしょう」
「それは……」
どこから説明したらよいものか、
「それはつまり、そういうことですよ。貴方も我々もあの方の掌の上で踊らされているに過ぎないって事。ひょっとして山南さん、自分だけが特別なのだ!って考えちゃうイタイ人ですかぁ」
応えたのは久坂であった。状況は一転して追い詰められているというのに、その表情は相変わらず飄々としている。
「やはり象山殿は長州にも……、いいえ全ての勢力に技術を広めているのですね」
「でも、それがどうであれ手前の命がここまでなのに変わりはないよね。ノグチっち、早くやっちゃおうよ」
藤堂はどうやらこのやり取りに早くも痺れを切らしたようで、はやく太刀を抜きたくてうずうずしている。斉藤が腕で止めていなければ真っ先に斬りかかっていただろう。
「まったく、どうして壬生の犬どもはこうも我慢できない奴らが多いのだろぅか。君アレでしょ、好きなものは最初に食べちゃうタイプでしょ。でも、それは頂けないね。」
久坂の表情が厳しくなり、若干の悔しさが見て取れた。
「生憎だけど、ここにあった資料は既に同士が回収済み。この場所にもう用はない。まぁ、君たちの資料が手に入らないのは残念だけど、そろそろ撤退するよ。藩の為に死ぬ俺マジカッケェ!!!とか超寒いし」
「久坂さんは必ず返せと、桂殿からのご指示だ。貴様らの相手は我らだ。」
もう一人の三浦が腕を上げると、新たに鎧をつけた兵が2、3人現れた。おそらく邸内に隠していた屍兵の残りであろう。だが、動きはどこかぎこちない。新撰組の精鋭を相手にしたのならば数分も持たないであろう。
「そのような木偶人形が数体で、ここから活路が開けるとでも?」
今度は斉藤が問うと、三浦は微笑を浮かべそれに応えた。
「所詮我らは死にぞこない、死人には死人にしか出来ない戦いがあるものよ」
三浦は銃の火種を身体に押し付けた。他の兵士もそれに続く。
「まずい、山南さん!奴ら自爆するつもりですよ」
藤堂はそう叫んだ瞬間、辺りは白色と轟音に包まれた。
(第15話終わり)
草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜 第14話
いがもっちです。
「佐久間象山なんでまだ生きてんの? 河上万斉に斬られて禁門の変ではもう死んでいるよね?」
という質問にお答えします。
万斉に斬られた佐久間は死生術を用いて作られてクローン佐久間です。
※禁門の変にて三浦をうまい具合に操り新撰組が戦場へと赴く口実を作った小佐吉は、今回の禁門の変の首謀者である長州藩、久坂や寺島が朝廷のおわす鷹司邸へ向かったと聞き、三浦とともに鷹司邸に乗り込む。
瞬殺だった。
歴史SF小説『草莽ニ死ス ~a lad of hot blood~』 第13話
●ゴクツブシ米太郎です。10話以上経過してもあまりに男だらけのチャンバラ大会すぎるので、女性キャラクターも出してみました。こいつも結局チャンバラしてるだけですが……。
第13話
胸を深くえぐった脇差が抜かれると、三浦啓之助は力なく畳に転がった。
「久坂ッ……玄瑞」
三浦は畳に染みていく己の血だまりを見ながら、虫の息で必死に問いかけた。
「俺を手にかける……とは、気でもふれたか……? お、俺が死ねば父……上が黙っちゃいねぇぞ」
「勘違いも甚だしいねぇ、出来損ないの三浦くん。まるで同じ寺子屋の女子とちょっと目が合っただけで『あいつ俺に気があるんじゃね?』って思い込んじゃう男子くらいのクソ勘違いだねぇ」
久坂は狙いを定めるかのように、三浦の首筋に脇差をぴたりと押し当てた。ひやりとした鉄の感触が、三浦の弱っていく心臓を震え上がらせる。
「残念だったねぇ。お父上の頼みで俺は君を抹殺しにきたみたいなトコあるからねぇ。つーか、まぁ、事実そうなんだけど。君の生首を持って帰れば、お父上は大喜びなんだよ」
「う、うそだ……!? 父上は……俺のことを、あ、愛してくれているのに――」
「それも勘違いだねぇ。まるでたまたま掃除当番いっしょになって、ちょっと雑談交わしたくらいで『やっぱあいつ俺のこと好きなんじゃね?』って確信しちゃうチェリー男子くらいのクソ勘違いだねぇ」
久坂はおーい、と部屋の外に向かって声をかけた。
「寺島キュン、こいつ殺る?」
「イヤッホーゥ! オフェーイ!」
刹那、おかっぱ頭の青年が飛び出してきたかと思うと、斧で三浦の首を一刀両断してしまった。
「ちょっと、勢いよすぎ! 三浦の首どっか飛んでっちゃったよ! 寺島キュン、全力で拾ってきて! あれ持って帰らなきゃいけないんだから」
「オゥイエェェ! ポォォォウ」
ばたばたと駆け出す寺島忠三郎を見送ったあと、久坂は三浦の首なし死体を見下ろし、つぶやいた。
「君みたいな“人でなし”がねぇ、いくら『あいつ俺だけ接し方違くない? 告ったら絶対いけるやつだわ』なんて思ったところで勘違いは勘違い、学園青春モノなんて君には一生縁がないんだよ。出来損ないの君には薄暗い墓場がお似合いだね」
そう言い捨てた久坂が背を向けたとたん、三浦の死骸がびくん、と跳ね、ゆっくりと起き上がったかと思うと、久坂めがけて襲い掛かった――。
「長州の者かって……? あんなイモ侍どもなんかと一緒にしないでくれる?」
“影”は小佐吉の眼前に姿を現した。小佐吉は目を瞠った。“影”の正体は忍びのような黒装束を身にまとった女だったのだ。
小佐吉の警戒感はいくらか薄らいだものの、当然の疑問は拭えない。
「おぬし、何者だ? 何の用でここにいる?」
「私の名は魁(かい)。普段は流しの遊女をやってるが、たまに特命で忍び稼業もこなす。二足のワラジってやつさ」
「お魁どの、か。遊び女にしてはちと、イカツイ名前にございまするな」
小佐吉が本音を口にすると、お魁の目がキッと細くなる。
「別に関係ねーし。つーか、そーゆーとこで勝負してねーし。あんたこそその制服、新撰組だね? それなのに腰からぶら下げた得物が木刀って、なんだいそりゃ」
そこへ、お魁の背後からゆらりと現れた男を見て、小佐吉は安堵して声をかけた。
「おお、三浦どの。どこに行かれたかと心配しましたぞ。拙者は今しがた、自称遊女の不可解なおなごに絡まれておりましてな」
「そうか。それは憂慮すべき事態に相違ない」
三浦は前金具に鯛のレリーフをあしらった煙草入れを懐から取り出すと、落ち着いた所作で煙草をふかしはじめた。
「ただでさえ人の子の命数は短いというのに、不可解なおなごとの不毛な会話に数分を割いたとあれば、その無駄は惜しんでも惜しみきれるものでもないな」
「は……?」
小佐吉は目をぱちくりさせた。
「み、三浦どの……? 本当におぬし、三浦どのなのですか? 何やら、キャラクターが……」
「やれキャラクターだ、やれ世界観だ、などという議論に興じている余地は無い。有限の時の中で、ただ只管に物語を前進させねばなるまい」
謎めいた発言に小佐吉が気を取られている隙に、三浦の手は刀の鞘にかかっていた。
次の瞬間、二本の刀が小佐吉の目と鼻の先でぶつかり合い、火花を散らせた。
鞘から抜きざまに、小佐吉の脳天に振り下ろされた三浦の刀と、それを受け止めたお魁の小刀。まるで静止画のようにびくともせず、鍔迫り合う。それを尻目に、三浦のキセルから白煙がゆっくりと立ち昇る。
「不可解な女が不可解なマネを……。私の行動計画にこれほどの無駄をねじ込むのは差し控えて頂きたい」
「あんたのその野暮ったい口調がいちばん無駄だっての!」
お魁は渾身の力で刀を弾き返した。が、反動で身体が後ろ向きによろける。その間隙を狙って再度、刀をふりかぶった三浦の顎を、畳に手を付き宙返りしたお魁の脚が蹴り飛ばした。
小佐吉がもたもたと木刀を構えようとしていると、態勢を立て直したお魁に腕をむんずとつかまれた。
「逃げるよ!」
走り出しながら、小佐吉は口を開いた。
「お魁どの。拙者、あまりの急展開についていけず、何から問うてよいものやら決めかねるのだが……」
小佐吉は唾を飲み下し、意を決して尋ねた。
「お魁どのの胸のサイズはいったいいくつなのだ? 遊女ともなれば相当大きいのではないか?」
「いちばん最初の質問がそれって頭おかしいんか! 脚の骨折るぞ、このイモ侍!」
お魁はこめかみに青筋を立てつつも、
「混乱してるってのは確かだろうから、私から話すけど、さっきの三浦とあんたたち新撰組に入ってきた三浦は全くの別人。二人とも、佐久間象山が死生技術でつくりだした生きる屍なんだよ」
「そ、そんな!? どうして三浦どのを二人も?」
「象山の思想は高邁すぎて私なんぞには理解できないさ。だけど、彼の元門弟から話の一端を聞く機会があってね」
お魁は廊下の突き当たりで立ち止まり、敵の気配がないか確かめると、再び足を速めた。
「まず、三浦の分身をいくつかつくりだす。次にそれぞれを成長させる。最終的には最も優秀な個体にそれぞれの分身が習得した経験や思想を移植することによって、象山の理想とする人間をうみだす……。そういう計画よ」
「経験値を得られる容器を分散させ、効率的に稼ごうという寸法でござるか。ということは、この世にはまだほかにも三浦どのが存在しているかもしれぬのか?」
「その可能性はあるね。私はここ数ヶ月、さっき斬りかかってきた三浦を追っていてね。私は今回、さっきの三浦が新撰組に入った三浦を始末するため動くという情報をつかんで、彼を尾行したんだ。始末する理由はわからないけど、近頃、粗暴な性格に歯止めがきかなくなってきたから、余計な騒ぎを起こす前に処分したいという象山の思惑があったんじゃないかと思う」
「なんとまぁ……。拙者には理解できぬことばかりでござる」
小佐吉の率直な感想に、お魁はフッと笑みを漏らした。
「私としたことが、ちょっと喋りすぎたかな。まぁあんた馬鹿そうだし、さっさと忘れて頂戴。それに、おそらく三浦に関する計画なんか、象山のやろうとしていることの氷山の一角に過ぎないだろうから」
「いやいや、貴重な情報ですぞ、お礼を申し上げる。それに、見ず知らずの拙者を危機から救ってくれたことにも、感謝のほかに言葉はありませぬ」
「見ず知らずの人間が、目の前でバッサリ斬り殺されるのも胸糞わるいでしょ」
お魁がため息混じりに言った次の瞬間、一発の銃声が空気を切り裂き、お魁がもんどりうって床に倒れた。
「お魁どの!」
「だ、大丈夫、腕をかすっただけ。それより――」
「それより早く立たねぇと二発目うっちゃうよー。ねぇ? 一人殺すも二人殺すもさほど変わらんよってこりゃ典型的な悪役のセリフじゃあねぇですか、参ったねぇ」
久坂玄瑞が、拳銃をクルクル回しながら二人の前に立ちはだかった。左手には、身体じゅうを銃弾で穴だらけにされ、おびただしい量の血を垂れ流している首なし死体を引きずっている。
それを見て、小佐吉は背すじがぞっとした。
「その死体の召し物――もしや三浦どの!?」
「出来損ないのほうのね。優等生のほうは……、ああ、なんだ。そこにいたか」
小佐吉とお魁はハッと背後を振り返る。いつの間に追いつかれていたのだろう、もう一人の三浦が能面のような表情で二人をじっと凝視していた。
狭い廊下での挟み撃ち。これでは、圧倒的に小佐吉らの分(ぶ)が悪い。
「いやぁすまんね、しつこく追いかけちゃって。まるで寺子屋帰りのイケメン男子待ち伏せして一緒に帰ろうとする後輩女子くらいしつこいから、俺たち。そりゃもう猪突猛進型最終兵器ラブマシーンだから」
「三浦だけでなく久坂まで邸内に来てるなんて……。くそっ、完全に読み誤った」
お魁は腕を押さえながら小刀を構える。久坂はおもしろそうに言った。
「俺たちは優等生の三浦とは別の目的がもう一個あってここに来たんだがね。それにしても、魁とか言ったっけ、君? 確か以蔵の――」
「うるさい!」
お魁は怒鳴ると、小佐吉を睨んだ。
「ほら、早くあんたもその汚い木刀を構えなよ。こうなったら戦うしかないんだから。まぁ相手が相手だもの……。あっさり負けて次回が最終回って流れでも文句言わないでよ」
「なにとんでもなく物騒なことをおっしゃるのですか! 拙者は、こんなところで負けるわけにはいかぬのです」
小佐吉は木刀を構えると、深呼吸をしてつぶやいた。
「鍛錬の成果を、いざ見せん!」
(第13話終わり)
歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of blood〜』 第12話
★マーシャルです。更新が遅れたこと、申し訳ないです。禁門の変に関して勉強不足が目立ってしまう……
長州の首が揃って鷹司邸へと潜ったらしいでっせ。なんでも鷹司邸ってのは朝廷たちのおわすところと聞きやすじゃないっすか……」
三浦はニタニタと邪悪な笑みを浮かべている。
「その可能性は十分にありますね。鷹司様は長州贔屓な上、関白に就かれていたお方。戦況が不利となった今、彼らに残された手段は朝廷への嘆願を届ける事のみです」
「つまり、ヤツらは最後の望みをそのお公家様に託してるってわけか」
山南の分析に近藤が答えると、三浦は待っていたかのように言を進める。
「その通り。だが、都で戦争を始める長州共だ。お公家様の邸宅でどんな狼藉を働くか分かったものじゃねぇ。我ら新選組はいち早く鷹司邸に向かい奴らを討たねばなるまい」
もちろん、彼のいう事は建前だ。本心では今にも戦の最前線で暴れまわることしか考えていない。しかし、功績を得たいという意味では近藤を含め、新撰組全員が同じであった。
「近藤さん、ここは三浦が言うように我々も早く鷹司邸へ向かうべきでは」
「京を守るのはわれらの役目です」
「他の藩の奴らにいい所を持っていかれたままでいいのですか」
近藤は暫し考えたが、最終的には隊の雰囲気にのまれた。
「分かった。山南、三浦と数人連れて先行しろ。」
その言葉を聞くや否や三浦は我先にと、その場から走り去った。周りは三浦の粗暴さに呆れかえっていたが、山南だけは小佐吉もその場からいなくなったことに気づいていた。
小佐吉が、鷹司邸にたどり着くと辺りは長州兵と越前兵が既に戦闘状態に突入していた。銃声や怒号はむろん、門の付近が最も激しくとても邸内に入るどころではない。
さて、どうしたものかと考えていると、三浦が小佐吉にこっちにこいと手を招いていた。向かってみるとそこは正面からは死角となり崩れかかった塀のそばであり、これなら二人がかりでならば登る事が可能であろう。
「正面は無理だ。だとすると忍び込むしかねぇ、肩ァ貸せ」
なるほど、こういうところは狡賢いというか、機転が利く人間のようだ。小佐吉は素直に従うと三浦は塀に素早く登り、小佐吉も手を借り後に続いた。
「いいか、さっき見た限りじゃあ大将はすでに邸の中だ。手分けして探して見つけたらすぐに俺に伝えろ」
言い終わるやいなや、抜刀し屋敷に飛び込んでいく。
小佐吉も遅れまいと脇差を抜いた。邸宅は一見静かだが、おそらく中では乱戦となっているであろう。ここで何としてでもここで功績を得なくては……
だが後を追おうとしたその時、縁側の下で影が動いているのを見逃さなかった。
「どこだ、どこだ、どこだ、どこだ」
三浦は障子やふすまをけ破りながら、室内を探し(荒し)回っていた。しかし、室内は長州兵どころか屋敷の住人すらいないもぬけの殻であり、それが彼を苛立たせた。
「くそっ、なんで敵が誰もいねぇんだよ。これじゃ俺の活躍が水の泡じゃねぇか」
苛立ちが余計に粗暴さを際立たせる。しかし、彼もここに来て屋敷の異常さに感づき始めた。
「ん、じゃあどうして奴らはここを目指しているんだ。公家もなんも居なかったらここに来る意味なんて無ェじゃねぇか」
「それはここが京での我らの屍研究の拠点だからだ」
気がつくと、三浦は背後から脇差によって胸を貫かれていた。
「お前ェは、久坂玄瑞」
「止まれっ、新撰組だ」
小佐吉は縁側に潜んでいた影を追っていた。影は巧みに戦闘区域を避けながら移動していた。恐らく小佐吉も塀の上で気づかなければそれには気づかなかっただろう。
「なんでございますか。私は鷹司様に仕える者、逃げ遅れただけで決して物取りなど……」
「そのような臆病者が誰にも気づかないように気配を消してここまで逃げられるものか、長州の者かどうなのだ」
小佐吉の鬼気迫る勢いに、影は再び黙したが付近には新たに殺気が篭もり始めた。
(第12話おわり)
歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of blood〜』 第11話
いがもっちです。今回はいきなり本文から入ります。
※元治元年、7月19日。この日、歴史にも残るとなる事件が起きた。
禁門の変、改め蛤御門の戦いである。
池田屋事件の一件以来、悪役として睨まれていた長州藩は罪の回復のために朝廷に許しを請う。
朝廷内部においても長州藩擁護派と長州藩討伐に別れ、最終的に会津藩擁護の孝明天皇の命によって長州討伐という強硬策を取るのであった。
長州藩、尊王攘夷派リーダーである久坂玄瑞は朝廷の京からの退去命令に従おうとしたのだが、仲間たちの進発におされ京へ挙兵することとなった。
新撰組は自陣にて待機をしていた。
白い幕張の内側では近藤、土方、山南、武田などの幹部が戦の作戦会議を開いている。
「新撰組は彦根藩と大垣藩の後方か。功績をあげるのは難しそうだな」
近藤が腕を組んで思案する。
「ええ、先の池田屋の一件で長州は新撰組(うち)を目の敵にしているでしょうから、会津藩が取り計らってくれたのでしょう」
武田がことの説明を行う。
「いらんお世話だな。こんな戦、俺たちだけで8割方片付けることができる。戦が始まり次第、前線へ乗り込むまでだ」
土方はドスの効いた低い声で言い放つ。声からして多少のイラつきを見せていた。
「さらに長州は屍兵を寄せ付けないため京に火を払っていると聞きます」
山南が情報を付け加える。
「屍人は火が苦手だからな。新撰組(うち)の屍兵も今回の戦に出すのは厳しいやもしれんな」
近藤は考えあぐねている。
「さて、どうやって俺たちも戦場に赴いたものか……」
その会議の様子を側から見ていた小佐吉はある考えを思いつき実行に移す。
「三浦殿」
「あーんなんだ?」
戦が待ちきれないのか佐久間象山の息子、三浦は剣を見入っていた。三浦の付近には切断された蟻や昆虫の死骸が転がっている。
「なんだ小佐吉。おめーか。戦はまだ始まんねーのか?」
「まだでございます。三浦殿、私にいい考えがあるのですが……」
小佐吉は自分の考えを三浦に伝える。
「それにいったい何の意味があんだよ?」
「新撰組が合法的に戦を始めることができまする。さらに三浦殿。あなたが武功を挙げられますぞ」
小佐吉はニヤッと笑った。
「なんだてめーは。しょーもねーやつと思ってたけど、物分かりがいいじゃねーか。意外と悪ガキだな」
三浦もハッハと笑う。
「小佐吉でございまする。少々よろしいでしょうか?」
小佐吉が片膝をつき幹部たちの会議に割り込んだ。
「どうした?」
顔見知りの山南が尋ねた。
「先ほど三浦殿が先行してへ九条河原へと切り込みに行きました」
「なんだと!? まだ出動の知らせもきていないというのに。あいつは次から次へと」
近藤は困惑した表情になる。
「はい。しかし、こうなってはやむを得ません。これを機に三浦殿を止めにいくという形で我々も向かうのはいかがでございますか?」
一同はしばらくの間話し合ったが結局小佐吉のいう通りにすることに決めた。
出陣すると決まった時に小佐吉がニヤリと笑ったのを山南は見逃さなかった。
……やはりこの子はどうやら只者ではありませんね。
九条河原に出陣するとそこには数多くの長州の屍があった。
「おうっ、小佐吉遅かったな」
長州勢の屍の中で三浦はあぐらをかいて座っていた。新撰組の先頭を走る小佐吉へと手を挙げた。
三浦の元へ近藤が鬼のような形相でづかづかと歩いていく。
「お前はなぜこうも決まりを守れない! 組織というのは一人で動いているもんじゃないんだ。そして一人一人の行動には連帯責任が伴う!」
近藤の説教にも三浦は反省の色を見せない。
「へへっ、いいじゃないですか、局長。目的は長州討伐。例え指示を破ってもそれに加担してればそう咎められますまい」
「次からは指示なしで行動するんじゃない。いいな?」
近藤は経験上これ以上言っても無駄だとわかり説得を諦めた。
「ヘイヘーイ。そういえば、そういえばさっきおもしれぇ情報が手に入りやしたぜ」
「なんだ?」
「久坂や寺島?だっけか。長州の首が揃って鷹司邸へと潜ったらしいでっせ。なんでも鷹司邸ってのは朝廷たちのおわすところと聞きやすじゃないっすか……」
歴史SF小説『草莽ニ死ス ~a lad of hot blood~』 第10話
●祝・『ガキの使い』フリートーク復活。トーク中に転がり出てくるあのトリッキーな発想を勉強して、小説に活かしたいと思いました。
この国には、新撰組の隊士よりも剣に優れた者がいる――藤堂との会話によって脳の真ん中に植え付けられたその発想は、小佐吉をいよいよ発奮させた。近頃、雑用の合間に一心不乱に木刀を振っては夢心地に顔を輝かせている小佐吉の様子が、隊士たちのあいだで小さな噂となっている。
「坂本龍馬か……。いつか、手合わせ願いたいものですなぁ」
頬を高潮させ、ひとりごちる小佐吉を、藤堂がニタニタ笑いながら囃し立てる。
「ムリだよ、ムリ。小佐吉もといザコ吉なんか、一太刀でねじ伏せられて終いだよ」
「それほど強いのですか、坂本は」
小佐吉が身を乗り出して問うと、藤堂は満更でもなさそうに坂本の武勇伝を一つ、二つ披露してくれる。そのエピソードを脳内で反芻するあまり、小佐吉はついに自分が坂本に生まれ変わって、黒船を一刀両断して海に沈める夢まで見るにいたった。
新撰組の朝は早いが、小佐吉は最近、起床時間の二時間前には目があいている。
なんとなく不安に駆られて起き上がるとすでに、頭には剣のことが浮かんでいるのだ。
雑魚寝している他の者に気付かれぬよう、音を立てずに庭へ飛び出すと、小佐吉は心の中で雄叫びを上げながら木刀をふるう。
――隆晴殿、見ていてくだされ。拙者は鍛錬を積んで、日本一の剣豪に成り上がってみせまするぞ!
「あんな無茶苦茶な身体の使い方をしては、長く持ちますまい」
小佐吉の朝練をいち早く察知して、障子の隙間からひっそりと見守る斎藤一がぼそぼそつぶやいた。
「それに、あいつには剣の才能は無い。立身の道すじを選び誤れば、迷子になって腐るだけでしょう」
「まぁまぁ、もう少し見ていましょう」
斎藤の隣で山南総長がさとすように言った。
「彼には迷子になったら、自分で道をこしらえて走りだしかねない生命力がありますからね」
朝も晩も剣、剣と猛進する日々が数ヶ月つづいたある日。夜明け前の澄んだ寒さに粟立つ肌をさすりながら、小佐吉が朝練をはじめようとしたとき、
「おい、そこの」
と、正門のほうで誰かの呼ぶ声がした。
見れば、目と顎の尖った、どことなく人相のよくない若い男が門の上に身を乗り出して、小佐吉を手招いていた。
「俺が来るって話は聞いてるだろ? 門を開けな」
「失礼ですが、どなた様でございましょう」
「あんだと? 俺は今日から新撰組に入隊する三浦啓之助だ。あの偉大な佐久間象山を父に持つ男だぞ」
三浦啓之助。本名を佐久間恪二郎という。将軍慶喜公付きの講師に抜擢された佐久間象山のせがれが父にくっついて上京し、新撰組に入隊することになったという話を、小佐吉はようやく思い出した。
改めて観察すれば、顔つきこそわるいが身なりは上品で、不自由のない暮らしをしている様子が察せられる。
「これはこれは、無礼をお許しあれ。かような時刻においでになるとは露知らず……」
小佐吉の弁解を、三浦は一笑に付した。
「今日来るっつってんだから、何時に来ようが俺の勝手だろ」
いいから早く門を開けろ、と三浦が命令口調で告げるのに小佐吉は黙って従った。
「ありがとうよ。ま、今日から厄介になるんでな、よろしく頼むぜ」
三浦はそう言って小佐吉に握手を求めた。
存外、最低限の礼儀は持ち合わせているようだ。
小佐吉は差し出されるままに、手を重ねようとした――
刹那、三浦の袖口から小刀がぴゅん、と飛び出し、あやうく小佐吉の手を切り裂きかけた。驚いた小佐吉は小さく叫んでとびずさる。三浦は乾いた笑い声を上げて言った。
「天下の新撰組隊士ともあろう者が、初対面の人間にそう気安く心を開いてどうする。ったく、ざまぁねぇな」
小佐吉は唖然と三浦の顔を見つめるほかなかった。
夜が明けると、三浦は新撰組全体の前で紹介された。
平穏無事に済ませばよいものを、三浦は、その場が凍りつくようなことをやらかしたのだった。
「エー、俺の剣の腕を諸君に証明するためにだね、浪人の首でも狩って土産にしようと思ったんだが、生憎、見当たらんでねぇ。代わりにコレを――」
そう言って、三浦が麻袋をひっくり返すと、中から兎の頭がごろごろ転がり出てきたのである。その数、二十、いや三十はあろうか。
しなびた耳から白く濁った目玉にまで、血のりがべっとりとこびりついて悪臭を放ち、とても正視できたものではない。
「とんでもない輩が入隊しやがったな」
屍番のノグチは嗅覚を失って久しいのに、思わず鼻を押さえながらぼやいた。その隣で、小佐吉がもぞり、と動いた。彼は、まるでジャガイモでも拾うかのような身振りで兎の頭を麻袋に戻している三浦を眺めながら、ひとりごちた。
「うーむ、どうにかしてあの男、利用できなんだか……」
(第10話おわり)
歴史SF小説『草莽ニ死ス 〜a lad of hot blood〜』 第9話
★マーシャルです。自分の幕末モノのバイブルは『お~い!竜馬』です。肝心の新撰組については実はあまり……、『PEACE MAKER鐵』とか読もうと思います。
小佐吉はその後、件の少年と道を共にしていた。彼の腕は確かなものであるし、このまま四六時中、雑用仕事ばかりでは到底、剣技など上達しないのは明らかであった。
先ほどの技の所作を見れば少年が自分とは違い、何かしらの流派を極めている事は明らかであるし、何より今もこうしてその体躯ながら泥棒を軽々と担いでいる事も彼が唯者でないことを際立たせていた。
それにしても、小佐吉は歩きながら考える。
この道の先に果たして道場などあったであろうか、この少年がどこへ向かっているのか見当がつかなかった。そもそもこの辺りに道場などあっただろうか、この先にあるのは新選組の……
そのような事を考えていると、少年の歩が止まった。
「よし、着いたよ」
なんと、屯所へ戻って来たではないか。
「ここが、道場ですか」
言っていて何だが、愚かな質問だと思った。誰がどう見ても道場などではない。
確かに自分は使ったことは無い(使わせてもらえない)が、訓練場のような場所はあったかもしれないけれども。
「あ、そうでした。泥棒を捕まえたのでしたね。道場は別の場所にあるのですね」
「うん、何を言ってるんだい。泥棒捕縛の用事も出来たしウチにおいでよっていったじゃないか。そういえば名乗っていなかったね、僕は……」
その時丁度、小佐吉に用事を頼んだ隊士が門前にやって来た。
「おい、使いは済んだのか。あっ、藤堂さんお帰りですか」
今なんと?
少年はこちらを振り向くと屈託のない笑顔で紹介した。
「ウチの1人だったんだね。僕は新撰組八番隊隊長、藤堂平助藤原宜虎だよ。よろしくね。」
その後、小佐吉は藤堂に連れられて訓練場で剣術の指導を受けることが出来た。竹刀を使った打ち込みを行った後、模擬戦を誘われた。どうやらあの墓地での出来事は幹部たちの間では今も話のネタになっているようだ。
結局、模擬戦で一太刀も藤堂が浴びる事はなかった。小佐吉はといえば、練習にバテて地面に仰向けで倒れている。所詮、我流。動作と隙の無駄の多さを今の光景を物語っている。
「無駄が多いね。でも、身体はしっかりしてるからこれからもっと上手くなるよ」
「作用ですか。藤堂どのはやはりお強いですね、どちらで剣をお学びになったのですか」
「ん、そうだねー江戸に居た時に近藤さんのとこの試衛館で天然理心流も学んだんだけど、はじめは於玉ヶ池の千葉先生の下で北辰一刀流を学んだんだ。因みに山南さんもそこで剣術を学んでいるよ」
北辰一刀流については小佐吉も故郷の藩で聞いたことがある。それにしても山南どのの剣術もその流派から由来しているとは、これはもっと聞く価値がありそうだ。
「その歳でそれだけの実力者なのですから、江戸の道場に居た頃からさぞお強かったのでしょうね。道場でも敵は居なかったのでないですか」
藤堂は苦笑いした。
「そんなことはないよ。山南さんも出入りしてたし、何より千葉道場にはもっとすごいのがいたよ。塾頭を務めてた」
このお二方が認める剣の使い手がいたとは、意外である。
「その人はどんなお方だったのですか」
「土佐訛りの五尺六寸(約170cm)の大男さ、坂本龍馬ってヤツ」
(第9話おわり)